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卒業式の再会 3
章達の画策虚しく、知己は朝のうちに卿子から聞いて将之が来ていたことを知っていた。
「平野先生、知ってました? 今日の来賓の教育委員会の方、いつもの女性の方ではなく中位さんでしたよ」
来賓にお茶出しした卿子が、職員室に戻るなり知己に話しかけたのだ。
「は?」
(あいつ、そんなこと一言も言ってなかったのに?)
「あの意地悪Masterが来ているのですか?」
明らかに初耳と驚く知己に、クロードが
「そういうのって教えないものなんですか? それともなんかやましいことがあって教えられないとか? というか、そんなことも言えない仲?」
矢継ぎ早に質問したが、知己にはどれもはっきりとは答えられなかった。
曇る知己の表情に、クロードはそれ以上聞かなかったが
(一番は、「やましいこと」説……かな?)
と、アタリはつけていた。
知己は
(クロードも章達も居る。今は事を荒立てずに、家に帰ったら速攻聞きだそう)
と思っていた。
「来賓より祝辞を頂戴いたします」
司会の言葉に従い、将之が席を立つ。
優雅かつ堂々とした将之の振舞に、かつてこれほど教育委員会の話に注目が集まっただろうかというほどの視線が集中した。
当然、その視線の中には章達の
(教育委員会ー?!)
の驚愕の視線も含まれていた。
図らずも「なぜ、将之がここに?」問題は式の進行と共に解決をした。
式が終わり、主役の卒業生が退場の後に来賓、その次に保護者が3年教室に向かう。在校生はそのまま残り、体育館の会場を片付るようになっていた。
知己が体育館に並ぶ大量のパイプ椅子の片付けを指示している間に、章達は生徒達がわさわさと動くのにまぎれて、またもや抜け出すことに成功した。
目指すは来賓待機場所、校長室だ。
「ライオさん!」
校長室に入る一歩手前で、将之に声をかけた。
体育館を出るタイムラグはずいぶんあったが、来賓はゆっくり歩き、章達は全力で走ったのでギリギリ間に合った。
(やはり、来たか……)
敦と俊也は、共に章達を付け回した行動力の持ち主だ。
来賓の自分への突撃も想定していた。
将之は、穏やかに
「やあ。久しぶりだね」
と笑顔で応えた。
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