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章達が連れてきたのは、いつもの特別教室棟脇の非常階段である。
本当なら室内が良かったが、そこから一番近い理科室は知己の領域だ。勝手に使ったとなれば、さすがに怒られる。まず、職員室から鍵を持ち出した時点で、自分達の居場所がバレる。
今、知己は体育館の片付けの後、教室棟で帰りのHRをしている筈だ。
身動き取れないこの時間に、ライオこと将之に色々聞きだしたい。
三人は非常口の一番近くから、敦、章、俊也の順に階段に腰掛け、将之はそれに向かい合うように立った。どうやら将之は、屋外の階段に座る気になれないようだ。
「一体、将之さんは何者なの?」
章が単刀直入に聞いた。
「君たちが聞いた通りだよ。教育委員会で、みんなの大好きな知己先生の高校時代の後輩」
優しい笑顔を絶やさずに言う将之は、やはり久しぶりに会った親戚のお兄さんのようにも感じられる。逆に詐欺師か何かのような胡散臭さも感じそうなものなのに、以前の連携プレイの経験が、そうは思わせないでいた。
「俺は、別に大好きではない」
不満そうに敦が呟く。
「敦君だけは、そうなんだ。じゃあ、ちょっとだけ好き?」
だけを強調して言う将之に
「あんなお節介のe(c)なんか、全く好きじゃない」
久々に敦の公式が出た。
「敦ちゃんは全力で複雑なお年頃だから、相手にしなくていいよ」
「おい、章!」
「さっきも一人だけ手を繋いでもらってたし」
地味に嫉妬していた章が暴露すると
「……ほう。ナデナデ、ハグに続き、先輩はまたもや敦君とだけ手をつないだ……と」
将之の笑顔が消えた。おそらく、心の中でしっかりとメモを取っているのだろう。
「教育委員会だったから、教師の処分にも詳しかったんだな」
敦が確認するように言うと
「何、それ」
章は不思議がった。
「不純同性交遊の処分のことだね」
将之は頷いて答えていた。
「ただの高校時代の後輩。しかも教育委員会……の、割にはずいぶん仲良しだよね」
章が訝しげに聞くと
「そうかな?」
知己と仲良しと言われて、将之は思わず笑みをこぼした。
黙っていれば、好印象の爽やか青年で通る。
しかも今日は黒スーツの王子様だ。
木漏れ日の下、ゆるいウェーブのかかった栗色の髪が、笑うのに合わせてふわりと揺れた。
三人は、思わず見とれていた。
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