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将之と三人の間に沈黙が訪れて、うっかり見とれていたことに気付いた。
「……他に何か隠してない?」
取り繕うように、章が質問の続きをした。
「そうだね。君たちが気になることは、何でも聞いてよ。僕は嘘つかない」
三人の経験上、嘘をつかないという大人ほど信用できないのだが、こと将之に関しては不思議なほど危険アラートが鳴らない。将之の外見に惑わされる三人でもない。やはり、先日の奇妙な連携で生まれた信頼があるのだろう。
「じゃあ、ここに来賓として来たのも偶然?」
「本当は、僕の部下が来るはずだったんだ」
「あ。それってメガネの地味喪女?」
敦が訊くと
「……えー……っと」
『はい』とも『いいえ』とも言えずに、将之は戸惑った。
「文化祭に来てた女?」
章が言い換えると
「あ、そうそう。その彼女」
将之は喜んでそれに飛びついた。
「彼女、文化祭以来この学校を贔屓してるんだ」
その前までは「ヤンキー高、最低。いっつもお菓子のごみは落ちているし埃だらけで校舎は汚いし、男子ばっかでオラついてて怖いし。生徒も生徒なら、教師も教師。生徒を注意できないで、ぼさーっとしているし。あんな学校、仕事じゃなかったら絶対に行かない」と散々罵っていた。
だが文化祭から一変し、「あんな素敵行事できる学校、他に見たことがない」と絶賛している。
「贔屓なのに、なんで喪女は来なかったの?」
当然の質問である。
「それは……んー……。複雑な大人の事情があってね」
「へえ。それも教えてよ」
章が
(やっと、この謎の男の尻尾を掴んだ……!)
と表情に出さずに思った。
「君たちが聞いても仕方ないと思うけど。ま、いいか」
(え?! 複雑な大人の事情を教えるの?)
三人が一様に驚いて、顔を見合わせる。
そんな中、将之が一人でペラペラと語り始めた。
「ぶっちゃけ高校の数に対して、教育委員会の人数が足りないんだ。それで一人で複数校を担当しているんだけど、この時期……2月末日か3月1日か2日に卒業式をする所が多い。だから担当校の卒業式が重なった場合は、委員会の誰かが担当校以外も行くよう分担しているんだ」
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