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卒業式の再会 4
「ただいま」
正装の将之が帰ると、
「お帰り」
知己が仁王立ちで出迎えた。
「待っていたぞ」
「その言葉。今日のこのタイミングじゃなかったら、めちゃくちゃ嬉しかったんですが」
玄関先で靴とトレンチコートを脱ぎながら、将之が息を一つ吐いた。
自室に向い、そこで今日の王子的な服を脱ぎだした。
知己はついていき、部屋の前で将之の着替えをおとなしく待った。
「悪いことはできないものですね。まさか、僕が八旗高校に行くことになるなんて……」
たまたまだろうか。うつむき加減に言う将之に
(悪いことっていう自覚、あったんだ……)
と知己は思った。
「お前、うちの担当じゃないだろ? なんでわざわざ来たんだ?」
「はい。担当は前田千寿ですが」
前田千寿……きっと、あのメガネの女性だ。
「あの子達にも話したんですが、世の高校、なぜか3月1日に卒業式するところが多いんです。でも委員会の人数はそんなに多くない。だから分担して式に臨むんです。前田は、担当している別の高校に行きました」
ラノラー仲間の前田千寿は、ラノさんが居る八旗高校に行くことを強く主張した。
だが、将之がそれを黙って見ている筈はない。
将之のいうラノラー仲間は、仲間でありながらも決して協力関係にはない。むしろライバル。将之が、思いつくありとあらゆる理由をこねくり回して、前田には別の高校に行くよう仕向けたのだ。
それを聞いて、今度は知己が
「お前、本当にいい加減にしろよ……」
額に手を当てて顔を伏せるのだった。
「それで、残った彼女の担当校の割り振りをくじ引きしたら僕が八旗に当たりまして。でも、僕は敦君たちに顔がワレてるでしょ? これはまずいと思って、後藤に『八旗高校に行ってもいいよ』と譲ったんです」
(あ。一応、まずいと思ったんだ)
将之にも常識的な判断力があったんだと、知己は思った。
「……だったら、後藤君が来ればよかったじゃないか」
後藤は卿子にちょっかいを出すので、知己としては決して面白くはないが、将之が来るより遥かにいいと思われた。
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