242人が本棚に入れています
本棚に追加
「ところがですね、後藤のヤツ、変な勘繰りを入れてきたんですよ。
『中位先輩が、平野先生に会いたがらないなんて絶対に変です。何かありますね』
と言い張って、結局、くじ通りに僕が行くことになったんです」
こういう時、普段の行いがものを言う。
(……こいつ。後輩との人間関係、どうなっているんだ?)
外見だけはいい将之をすこぶる残念に思った。
部屋着の薄手のシャツに着替え、大き目のカーディガンを羽織つつ将之が知己の所にやってきた。
袖の部分をまくりながら
「章君たち……僕の予想に反して、かなり早い時間に来てましたね」
と言った。
「あいつらが見に行ってたのも知ってたのか?」
章達が東階段で覗いていたのにも将之は気付いて、知らないふりをしていたらしい。
「あの子達、かなりやんちゃなんですね。式が始まる前に抜け出すなんて。びっくりしました」
「それで俺も手を焼いている」
何を言っても聞き流す。それどころかトンデモナイ行動に出てしまうのは、三人でいる強みなのだろうと思われた。
(門脇の時でさえ、こんなに苦労しなかったぞ……)
去年が偲ばれた。
「とりあえず、彼らに聞かれたことは包み隠さず話したけど」
「それが問題だろ。少しは、隠せ」
体育館の片付け中に消え、帰りのHRにも居なかった。
おおかた特別教室棟だろうと思って探しに行ったが、仲良く(?)4人で喋っている姿を見て、
(また余計なこと吹き込んで……!)
と、大慌てで知己は乗り込んだのだ。
「でもあの子達の場合、隠した方が怪しまれますよ」
確かにそうかもしれない。
一年生の時に起こった前任者理科教師とのいざこざで、すっかり教師不信の大人不信になっている彼らに、下手なごまかしは火に油を注ぐようなもんだ。
(こいつのこういう所が、あいつらが妙に懐くとこかな?)
「とりま、僕からは何も暴露してませんから」
「暴露、言うな」
「本当。今回は余計なこと言ってません」
(今回は?)
「余計なこと言う前に先輩が来ましたので」
(……こいつ、なんか言う気満々だったんじゃないか?)
どこまで本気か分からない将之に
「マジでやめてくれ。これ以上、あいつら相手に面倒ごとは勘弁だぞ」
知己が言う。
最初のコメントを投稿しよう!