242人が本棚に入れています
本棚に追加
「その場のノリで『聞かれたら正直に話す』って言っちゃったんです」
「お前、ノリで話をするな」
「って言っても、まあ、普通は聞かれませんよね」
将之はクルリと向きを変えた。
「僕らがこういう関係かなんて」
正面になった知己の顎を捉え、そのまま頬に、ちゅっと音を立ててキスを落とす。
「……ぅ」
不意打ち食らって、知己は思わず唇を尖らせた。
(なんか色々狡くないか?)
「おや、唇が良かったですか?」
「そういう意味じゃない」
(打算的だ)
聞かれることのない質問なのに。
彼らの聞きたいこと全てに正直に答える『正直者』を装うなんて。
章達とは、一年かけて真っ当な会話(かどうかは甚だ自信がない)ができるまでになったのだ。これを水泡に帰すようなことだけは、やめてほしい。
(というか、俺は一年かかってやっとここまで来たのに、こいつはたった1日……いや数時間であいつらと仲良くなったんだよな……。やっぱり、こいつ。狡い)
「言っとくけど。お前、あいつらを甘くみてたら痛い目見るぞ」
じろりと将之を睨む。
「甘く見てないから正直に話すことにしたんですってば」
何だか、会話がループしている気がする。
「先輩の方こそ気を付けた方が良いですよ」
「何を?」
「敦君が可愛いからって、彼ばかり贔屓するのは見苦しいかと」
「そんなことはしてない」
何故か知己の近くに居るのが敦だった。他意などない。
「たまたま、あいつが近くに居ただけだろ」
「ナチュラルえこひいき」
「してないってば!」
「……僕は誰とも仲良くして欲しくはないんですが」
と前置きして将之は提案した。
「先輩がややこしいのを避けたいなら、とりま敦君以外、俊也君や章君とも手を繋いだらどうなんです?」
口角上げる感じ意地悪い微笑みに
(悪意を感じるな……)
と、鈍い知己でさえ純粋な意見ではなく、嫌味だろうと感じ取れた。
多分、自分が来るまでに章達が何か将之に言ったのだろうと思われる。
最初のコメントを投稿しよう!