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(だけど、これってさ、多分……)
ミルクインのコーヒーに労りの気持ちだけではないものも感じていた。
向かいに座る家永が微妙に片方の口角を上げ、にっと意地悪そうに笑っていたからだ。
「いや、見事な進路指導で」
家永晃一が准教授を務める慶秀大学は、難関大学で有名だった。
(嫌味だ)
そこにクラスから4人も合格者を出したとあって、知己は同僚たちからその手腕を褒め称えられた。
(全然、嬉しくない……)
メンバーがメンバーである。
成績は優秀だが、とにかく問題児で教師泣かせだった門脇蓮をはじめとする4人。いずれ劣らぬ「性格に難あり」なメンバーだ。
(我がクラスのトラブルメーカーが4人揃って家永のもとに行くのか……)
多分、家永はそれを分かっている。
他の三人も一度面識はあるが、少なくとも門脇の性格は既に絡まれたことがあるので、熟知している。
それで、コーヒー大好きブラック派の知己にミルク入りを差し出したのだろう。
「……すまんな、家永。迷惑かける」
溜息交じりに謝ると
「まだ、迷惑かけると決まったわけじゃない。それにお前の所為じゃない」
言いながら、家永は知己のコーヒーに更にもう一つミルクを足した。
「あの……? 家永……?」
「気にするな。お前の胃を心配しているだけだ」
「……絶対に違うだろ?」
「まあ、何かあったらお前を呼び出すまで、さ」
「俺、呼び出されるのか……」
卒業させても尚、門脇達とは縁が切れそうにない。
知己はそう、思った。
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