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(東階段から体育館に行くまでの話だな)
体育館に着くまでに、章達が手を繋ぎたいだのなんだのと騒いでいたなと思い出した。
(あれは手を繋いだんじゃなく、逃げ出さないよう捕まえて行っただけなのに。将之に捻じ曲げて伝えやがって。嫌な言い方しやがる)
敦だけ贔屓しているつもりなど、毛頭ない。
(だけど……)
そう見えるのなら、行動を改めるのも必要なのかもしれない。
試しに知己は脳内でシミュレートしてみた。
俊也の手を引けば、
(……あいつ、変に固まって動きそうにないぞ)
身長差はそこまでないものの、あれでいて俊也は体力も腕力もある。敦や章がそんなに腕力ないので、彼らが往々にして引き起こす揉め事解決の武力部門を担ってきたのはおそらく俊也。この学校に赴任当初、卿子への脅し役も知己を腕力で押さえる役も俊也だった。きっと、理科室引きこもり教師の知己の腕力では、俊也を引っ張るのはオオゴトだろう。
(俊也はダメだ)
それじゃと、章の手を引くパターンも考えた。
(章は、ホイホイついて来そうだが……)
ふざけて知己の腕まで組みそうだ。
「……ダメだ。どう考えても面倒に拍車がかかる」
「先輩は、損な体質ですねー」
呆れたように将之が言うと
「何だと?」
反射で知己は訊き返した。
「今日の夕飯、『どんな鯛めしにします?』と言いましたー」
先ほどと微妙に掠った言い方をして、誤魔化しきれないと思ってか、将之はそそくさとキッチンに向かった。
(鯛めしに、どんなも何もないだろう)
はぐらかされた思いに駆られつつも
(あ。もしかして、なにげにお祝い献立か?)
と、さりげない将之の意図にも気付くのだった。
―卒業式の再会・了―
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