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ホワイトデーのお返し
その日の放課後、章はニコニコとして理科室で待っていた。
「先生ー! 待ってたよー!」
知己が理科室の軽いアルミサッシを横にスライドさせると、章が嬉しそうに話しかけた。
「「今日は何の日だ!?」」
章と共に俊也も声を揃えて訊く。俊也も細い目をより細くして、微笑みながらんで知己の返答を待っている。
「……あー……」
知己は言いよどんだ。答えが分からずに言いよどんだのではない。むしろ、分かり易すぎる。
「……ちっ」
敦だけは、二人とは対照的にストレスフルな顔をして舌打ちをしていた。
「……あのな。言っておくが、何も用意してないぞ」
会話の展開を先読みして知己が言うと
「なんで?!」
「どうして?!」
先ほどとは打って変わって、噛みつくかのように二人が責め立てた。
「もらったら、お返しをする! これ、日本の美徳だよね? 美しい風習だよね?」
「それ、海外では通用しないらしいぞ」
「ここは日本だぞ」
「あー、そうだな。だけど、その美しい風習も職場ではギスギスの元になりかねないということで見直そうという動きがあるらしいぞ」
知己としては、ただでさえ個人的に初詣行ったり休日に出歩いたりしているのだ。これ以上、章達に特別に関わることは避けたい。
「はあ?」
知己の下手くそな説得。
理論武装していたのだろう。
棒読みにも似たしらばっくれた言い回し。
「大体、教師自ら菓子を学校に持ち込むのも変だろ? しかも数名の生徒にあげる為だけに」
「そんな禁止事項は、校則に書いてないぞ」
「書いてなくてもそうなの。俺は常識を言ったんだ」
適当に言って、言い逃れようとしているのは明白だ。
業を煮やした章が最終兵器を持ち出した。
「酷い! 事務のお姉さんにはお返ししてたくせに!」
「……え?」
知己が固まる。
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