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「もしかして……見てたのか……」
「鼻の下を伸ばして、『気持だけですが』とか陳腐でありきたりの言葉言いながら小さい義理チョコに対して三倍返ししてた!」
かなり悪意ある言い方になっているものの、残酷なまでに克明な状況説明をされた。
なんとも居たたまれない。
「……」
知己は今度こそ本当に言葉を失った。
(朝イチだったから、誰も来てないと思ったのに)
卿子はいつも早目に出勤している。
誰にも見られぬように知己も早々に事務室に寄ってバレンタインデーのお礼を手渡した。三倍とまではいかないが、それなりの高めの菓子を見繕った。鼻の下を伸ばしていたかなど、緊張して分かるはずもない。「気持ちだけですが」と言うのが精一杯だった。
知己としては、誰にも見られたくないし見られたとしてもそっとしておいて欲しい所だったが、怒り狂っている章達には通用しない。
デリケートな部分に、ザックザクと鋭利な言葉の刃を突き立てた。
「ちなみにお菓子の中身は何だ?」
俊也が訊いた。
「なんで、そんなことを訊く?」
すっかり意気消沈の知己だったが、ささやかな抵抗を試みる。
「というか、お前らにそんなこと答える義務はないし」
やさぐれて言ったが、心の中では密かに泣いていた。
「大事なことだよ。ちゃんと答えて!」
いまだに攻撃態勢を解いていない章が厳しく問いただす。
「マシュマロか?」
俊也も追及の手を緩めない。
「はあ?」
意味が分からずに訊くと
「マシュマロにしなよ」
「マシュマロがいいぞ」
もはやタイムマシンでもない限り、無理な注文まで付け始めた。
「クッキーでも可!」
「なんなんだ、もう。お前らに言いたくない」
「だったら、お姉さんに聞きに行くぞ」
「行こう、俊ちゃん」
「やめろ。マジで。待て。こら」
デリカシーのない言動に、知己は心の中で大号泣だった。
「じゃあ、ケチケチしないで教えてよ。減るもんじゃあるまいし」
とは言われたものの、既に知己のMPは減り、限りなく0に近かった。
渋々
「……マカロンだ」
と答えると
「「許さん!」」
即座に二人が叫んだ。
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