ホワイトデーのお返し

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 だが、敦の剣幕を気にするのは知己のみだった。  かまわずに俊也と章は交互に 「手を握ってくれ」 「はあ?」 「耳を触って」 「はああああ?」 「後、頭もナデてくれ。あ、純粋に頭でいいから」 「何を言ってやがる?」 「ハグもして!」  と次々にリクエストした。 「お前ら……」  将之が「敦君ばっかり贔屓して」と言っていたのを思い出した。 (いや。これ、俺の行動うんぬんよりもこいつらの所為じゃないか?)  どう転んでも面倒にしかならないように仕組まれている気がする。 「して」 「してくれ」  二人が理科室入口で知己に「して、して」と詰め寄っていると 「いいな。俺にもシテくれ」  楽しそうな声が廊下の方から聞こえた。 「門脇!」  声の主を見つけて知己が名前を呼ぶと 「「蓮様ー!」」  章と俊也も歓喜の声を上げた。  残念ながら、敦は窓際の席でぬくぬくしていたので、喜びの声に参加しそびれた。 「ホワイトデーだから、寄った」 「……門脇、お前もか」  知己にして見たら、面倒な輩がまた一人追加されたようにしか思えない。 「暇か?」  先月からちょうど一か月あけて、またもや遊びに来る門脇に、知己は呆れたように言った。 「大学の3月なんて、あってないようなもんだろ?」 「でも、お前、2月にも来てたよな?」  そのおかげで目下、こんな事態を招いている。 「俺が大学の単位ごときで苦労するとでも?」 「確かにそれはないだろうな……」  門脇は高校時代から頭脳明晰だったが、それはペーパーテストだけではない。大学の諸学問の分野でも思考の深さや応用力・発想力をいかんなく発揮していると家永が言っていた。 「それよりもホワイトデーのお返しだが、俺も、菓子よりそっちの方がいい」  嬉しそうに門脇は知己に手を握ってもらおうと手を挿し出した。
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