ホワイトデーのお返し

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「まずは手を握って……」  嬉しそうに出した門脇の手に知己は音を立てるほど強烈に手のひらを合わせた。 「痛ーっ!」  バシッと激しい音を立て、門脇が痛がる。門脇も痛かっただろうが、当然、叩いた知己も痛かった。  だが知己は 「……次は、耳だったか?」  敢えて訊く。 「あ、やめろ。耳を引っ張る気だろ? せっかくだから、息を吹きかけるとかにしないか?」 「絶対にしない」 「もう怒るなよ、先生。ちょっと冗談言っただけじゃないか? な。お前らもこんな目に遭うから、先生にオイタはやめとけ」  激しく叩かれて痛む手をさすりながら、門脇が釘を刺した。だが、なぜか痛い目に遭わされても、嬉しそうだ。  その様子を見ていた俊也が 「蓮様、どエムか?」  と聞いた。その瞬間に、門脇は俊也に痛まない方の手で平手打ちを繰り出していた。  瞬殺だった。  俊也が声もなく、吹っ飛んだ。  吹っ飛びながら俊也が1mほど知己から離れると、 「……ちぇっ」  渋々と章も離れた。 「……お前ら、お返しなんてちっせえことに拘るなよ。それが目的じゃなかった筈だろ?」  いいこと言っているかのようだが、ここに来ている時点で説得力は0である。  だが、そこは憧れの門脇の言う事。 「そうですね。僕の気持ちを受け取ってくれただけで嬉しかった……かな?」  と素直に聞いた。 「大方、俺の真似して無理やり押し付けたんだろ」 「え? すげ、千里眼!」  叩かれた頬を押さえながら、俊也が言った。 「先生のお堅い性格考えたら、簡単に想像つく。そんな方法でしか受け取ってもらえんからな」  サバサバと言う門脇に 「じゃあ、蓮様はどうしてここに?」  3月14日にわざわざやってきた理由を章が尋ねた。 「うん?」  門脇の動きが止まった。 「お返しもらえないと分かってて、どうしてここに来たんですか?」  章が改めて訊いた。
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