ホワイトデーのお返し

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(あ。もしかして……。今日、門脇が来たのは、章達が便乗でチョコを渡しただろうと見越し、その所為で俺が困っているのではと考えて?)  と鈍い知己が察した。 (ついでに、あわよくば自分ももしかしたら何かしらのお返しを貰おうとして?) 「……ああ。それは……。今日は、先生の……困っている顔を見に来た」  歯切れ悪く言う門脇に、知己は (門脇が正直に本音を語るとは思えんな)  と確信を強めた。 「さすが蓮様! 根性が腐っている!」  俊也は、門脇に対して最上級の誉め言葉を言ったつもりだったが、またもやパーンと気持ちよく張られた。 「だから……、蓮様の間合いで言うから」  安全圏内の遠い席から敦が呆れていた。 「相変わらず俊ちゃんは学習しないよね」  張り倒された俊也の真横に立ち、章が追い打ちをかける。 「だから、頑固な先生からお返しなんか期待すんな。高校生」  威張って門脇に言われると、腹が立つ。 「ちょっと待て」  知己は 「お前らに借り作ったまんまというのが気に食わん」  理科室の内側から準備室へ続くドアを開けた。 『お前ら』というよりも、『門脇』にのみにだった。  去年の春先から何かと門脇に助けられてばかりだ。今日もこんな形でだが、助けてもらっている。 「菓子なら何でもいいんだな?」  知己が念を押すと 「え? いや? 手を握ってくれるとかハグしてくれるとか……ぶっちゃけ、肉体で払ってくれた方が俺は嬉しいんだが」 「肉体言うな」  知己がすかさず突っ込むが、まさかこんな流れで何かもらえると思っていなかった門脇は複雑な表情だ。 「俺もー!」 「僕もー!」  章達の意見は無視して、知己は私物を置くロッカーがある準備室に籠った。  ごそごそと鞄の中を探ってみる。 (大体、宗孝(甥っ子)が俺に会うたびに色々くれるからな。菓子の3つや4つ、あるだろう)  知己溺愛の甥っ子・宗孝だが、宗孝にとっても知己は庇護すべき存在のようで、会うたびにせっせせっせと菓子を渡してくるのだ。
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