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なんとか3つ菓子を見つけて、理科室に知己が戻ってきた。
「じゃあ、やる」
理科室入口付近に並んでいる順に、章、門脇、俊也へ菓子を配ろうとした。
いつ誰からもらったか分からない個装の小さな菓子に、やたらとご機嫌に並ぶ三人に
(……そんなに欲しかったのか。なんか、つじつま合わせみたいな菓子で、すまん)
知己は少しだけ罪悪感を覚えた。
最初の章が右手の平を上に向けて、菓子を待つ。その手の上に渡される絶妙なタイミングで知己の手をぎゅっと握りしめた。
「うわ!」
驚く知己に構わず、
「ありがとう、先生!」
天使の笑顔でお礼を言いながら、左手を上から添えてがっしりと包むように握られた。菓子を貰った感謝の意を表しているようである。
(何なんだ? 一体……)
章の態度に怯えつつも、次の門脇に同じように渡す。
すると
「ありがとなー」
と門脇もすかさず知己の手を取った。
「ぎゃぁ!」
小さな菓子が災いし、門脇の掌に置くタイミングで巧みに指まで絡めてきた。
「……???」
図らずも何やら恋人握り風になって、知己がゾワリと鳥肌を立てている。
それこそが門脇が授けた
「菓子を貰った瞬間がチャンスだ。すかさず手を握れ」
という、ほぼセクハラ作戦だった。
こうなると三番目の俊也に至っては、戦々恐々。知己は、まるで冬場の静電気を恐れるかのようなビクビクとした動きになった。
そうっと触れるか触れないかのタイミングで俊也に渡す。
もちろん、俊也がそのタイミングを見逃すことはない。
「先生、サンキュー!」
「うひゃー!」
両手で握り込まれて、知己が叫び声を上げた。
「……お前ら、何、考えてやがる……」
眉間に皺寄せ、菓子を三つ手渡しただけとは思えない疲れ方の知己を無視して
「ねえねえ。何、もらった?」
章達は嬉しそうだ。
「俺、キャンディ」
と俊也が答えた。
「ふうん。僕はチョコ」
章が言うと
「俺はキャラメルだ」
門脇も答えた。
敦はすかさず携帯を取り出して、菓子の意味を調べ始めた。
「キャンディは『好き』で、チョコは意味なし」
「え? 意味ないの?」
明らかに落ち込む章とは対照的に、俊也が
「やった! ラッキー」
と喜んだ。
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