二度目の春

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二度目の春

 4月上旬。 「うっす、先生! 始業式、明けましておめでとう!」  知己が教室に入った途端、俊也がなんとも間抜けな挨拶をしてきた。 「浮かない顔してどうした?」  と敦が訊く。  そりゃそうだろう。浮かない顔にもなる。 「また一年、よろしくお願いしまーす!」  その横で章がにこやかに挨拶をした。 「……せ、席につけ。HRを始める……」  ぼそぼそと知己が言うと、仕方なく、面倒そうに生徒たちがそれぞれに席についた。  去年と多少の入れ替わりはあったものの、ほぼ2年時と同様の3年3組のスタートだった。 (まあ、分かっちゃいたけどな)  八旗高校において「3組」というものが、「大学進学コース」のクラス編成なのだ。  それは二年時より組まれている。  よほどの進路変更がない限り、メンバーは変わらない。  言ってみたら、知己は昨年から嵌められていたのである。  一年の時から既に不登校であり、かつ御曹司だけどかなりの問題児として挙がってきた敦を持ちたい教師など居なかった。だから、何も知らない異動してきたばかりの教師に押し付けたのである。  幸い、知己は大学受験科目の理科担当。  英語担当のクロードも同様の条件だったが、日本人の知己の方が押し付けやすかった。  それだけの話だ。 「この学校はまだ1年しか経験していない。進路指導に自信がない」  と年度末に知己も抵抗を試みた。  が、誰一人として敦・俊也・章の在籍する3組を担当しようとするものは現れなかった。 「あれだけ彼らに懐かれているんですから、諦めましょう。知己」  隣でクロードが同情気味に言う。 「皆、知己みたいにあの子達とうまくやれる自信ないのですよ」  章は一度は追試になったものの、学年1位に返り咲いた。  俊也もカツカツだが、なんとか進級を果たした。  敦に至っては、謎の教師いじめゲームを封印し、出席率を上げた。  壮絶な効果を上げている。  言葉にこそしないが、他の教師は内心これに太刀打ちできないと思っている。しかも、異動していった前理科担の件も知っている。下手を打って、新たな標的にされてはたまらない。 (既視感(デジャヴュ)あるなぁ)  門脇も似たような理由で担任をした。 「平野は、そういう星回りなんじゃねえの?」  先月の月一逢瀬で家永が言っていたが、まさにその通りになった。
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