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「予約みたいなもんだろ?」
先月の第三土曜日の昼下がり。
閑散としたファミレスの角席で、家永が、おかわりしたホットコーヒーに口を付ける。
「予約?」
知己も同じようにコーヒーのおかわりを注いで、席に戻った。
「俺の研究室に入りたいから、今からアピールしてんだろ?」
家永研究室に入り浸る門脇のおかげで、御前崎美羽の、家永准教授の講義中に最前列に座って睨むという地味な嫌がらせは続いている。思惑とズレたところで、一生懸命聞いた末に難しいと評判の家永准教授の授業の単位を難なく取れたことは、美羽にとってタナボタだった。
「そんなことしなくても、研究室には3年生になって希望すれば入れるんじゃないか?」
「残念ながら俺の研究室へは、希望者が多い。誰を入れるかは、成績順だ」
「へー」
(じゃあ、こまめに通ってアピールしても、予約にも何にもならないじゃねえか)
門脇と家永が仲良くするのはいいことだとは思うが、どうしても門脇が何か粗相をしでかすのでは……と、ついつい心配になってしまう。
「……で、入れるつもり?」
「断る理由がない」
さらりと家永が言う。
「もちろん成績も優秀なのが一番の理由だけど。あいつ、性格は面倒だが、すっげ有能だから、な。細かい所に気付く。すぐに微調整入れてくれるので、正直、来てくれてめちゃくちゃ助かっている」
「入れるつもりか」
「来年、希望したら俺の研究生にするから、このまま通い続けてくれないかな? とまで思っている」
『予約』という言い方をしたが、家永の方が門脇に恋愛感情抜きでメロメロ(?)になってると知己は思った。
「蓮様、来ないのか?」
知己に訊いて一瞬がっかりしたかのように見えた章が
「じゃあ、今日こそ気になっていることを先生に聞いちゃおうかな?」
と呟いた。
「うん? 気になっていること?」
わざわざ門脇が来ないことを確認して、聞きたいこととは何だろう?
(門脇に聞かれちゃまずいことか?)
「言いたくなくっても、言わせちゃうよ。ネタは上がってんだからね! 喋らない場合は体に聞いちゃうからね」
多分、章流の冗談だろう。
にっこり笑って不届きな発言をした。
「が・ら゛・だ!?」
黒塗りの実験用机は太陽光を集めて暖かい。腕を伸ばして上半身寝そべっていた敦が、章の一言で跳び起きた。
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