二度目の春

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「僕は、てっきりラノさんとご機嫌に写真撮ってた喪女さんのことだと思ってたんだけど」 (『喪女さん』……えーっと、将之が言ってたうちの学校の担当の人だな?)  喪女=黒スーツのメガネ地味女史。 「将之さんも実は委員会の人だったなんて、正直ビックリだったよ」 「ちょっと待ってくれ。頭がこんがらがってきた。一体、どういうことだ? 俺にも分かりやすく言ってくれ」  俊也が混乱している。 「もう、俊ちゃんなんだから」  多分、軽くディスっている前置きを呟いて、章が説明し始めた。 「つまり、初詣のカフェで僕らと一緒の所を見られたくなかったのは、喪女の方じゃなく将之さんかもしれないってことだよ」 「え? 将之さんはあの時カフェに居たのか?」  驚く俊也に 「うーん……それは、はっきりとは分からない」  正直に章が答えた。 「なんだ、分からないのか?」 「それは仕方ないでしょ。初詣の時は、僕らはまだ将之さんと知り合う前だったんだし、顔を知らなかったんだから。  僕が分かったのは喪女が居たことだけ。でも可能性は0じゃないよね? あの時喪女はカフェで誰かと一緒だったと僕は覚えているよ」 「すげえな。俺は覚えてないぞ」 「俊ちゃんは、喪女が居たことにも気づいてなかったでしょ?」  敦が黙っている所を見ると、敦も気づいてはいなかったようだ。 (というか、章が異常に目ざといだけなんだよな)  カフェで慌てる知己の態度で、知人が居ると想定して中を見回したのだ。 (こいつのこの観察力……。世の為人の為に役立てればいいのに)  だが、どうしてもベクトルは自分の為知己の嫌がる為にしか向いていない。 「だけど俊ちゃん赤点回避作戦(ミッション)の時の発言は、十分怪しいよね。本当は誰のことを言ってたの? さあ、洗いざらい喋って!」 (あ。これ、迂闊なこと言ったらダメなパターンだ……)  誰もが忘れていた知己の過去の言動を攫って、ここまで考えついた章。  章の発言から、厄介なことに敦も知己に疑いの目を向け始めた。  俊也だけはこれだけ説明受けたものの、未だに半分くらいしか理解していない。 (敦と章をごまかすのは、至難の業だな)  すっかり俊也を圏外において、知己は思った。 「言わない気? だったら、体に聞いちゃうぞ」 「が……、がら゛だっ!?」 「だから、いちいちエロワードに反応しないで。敦ちゃん」  とはいえ、これだけ連呼するのだ。 (わざとじゃねーか?)  章は敦の反応を面白がって、故意に言っているような気もした。
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