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「ねえ、先生。僕にそんな酷いことをさせないでよ。だから、思い切って本当のことを喋っちゃって」
章は被害者面して、明るくとんでもないことを言い出した。
「あ。ちなみに嘘ついたら自分で脱ぐんだよ」
(出たよ。章の謎の要求……)
呆れながら
「何故、そうなる?」
と言えば
「正直に話せば問題ないでしょ? だから、別にいいよねー」
教卓の内側に入り込み、章は強引に約束を取り付けてきた。
(これは……ごまかし切れるか?)
知己の額に汗が伝う。
(だけど、誤魔化すしかない! せっかく将之が卒業式の時にはバックレてくれたんだし)
密かに(将之の奴、よくこいつらの質問を捌き切ったな……)と、ほんの少しだけ将之を尊敬していた。
「えーっと……カフェに教育委員会の彼女がいたことは認める」
思わず視線を明後日の方向に動かしつつ、知己は歯切れ悪く話した。
(将之も、そう言ってたし)
「じゃあ、やっぱり彼女に僕らを会わせたくなくって?」
章は、逃げられないように知己の白衣の襟元を両手でしっかりと掴んでいた。
「そうだよ。だから、もういいだろ?」
襟を握る手首を掴んで強引に振りほどこうとしたが、章はしっかり掴んで離そうとしなかった。
「まだ訊きたいことあるから、だーめ」
章はしつこく聞いてきた。
「あの場に将之さんは居なかったの?」
「カフェにあいつが居たかどうかなんて、そんなこと聞いて一体、何になるんだ?」
「重要なことだよ。先生が思わず『なぜ知っている?』って取り乱した理由じゃない。あの会話の流れで言ったら、カフェに居た人は『好きな人』ってことでしょ?」
(ああ……、もう……マジで何なんだ……、こいつ)
章の洞察力に、知己の目の前が真っ暗になった。
ついでに今、ここタイムマシンがあったら過去に戻って自分を殴りたい衝動にも駆られた。
「将之さんは居たの? 居なかったの?」
改めて章にすごい剣幕で迫られて
「い……居なかった……と思う」
多少まごついたものの、
(証拠もないし、章だって確信持てないって言ってたんだ。この際、言っちまえ)
と、なんとか言い切った。
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