二度目の春

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「ふうん……」  章が冷めた目で知己を見る。 「はー……、残念だな。先生は僕に嘘をつかないと信じていたのに……」  章は溜息を吐きながら、絶妙に罪悪感を煽る言い方をした。 「う、嘘じゃない……」 「へー」  どう見ても信じてなさそうな章に 「い、委員会の人に、生徒と初詣してるところなんて見られたくなかったんだ」  と苦し紛れのいい訳をした。 「ほー」  章のやたらとハ行際立つ発言に、知己はメンタルをザクザク削られた。だけど、そんなことを気取られてはいけない。  必死で平静を装った。  そんな知己に、さっきまで惚けた調子の章が突如ニヤリと悪い顔で笑いかけた。 「はーい、先生! それでは、脱いでもらいましょうかー!」  いきなり白衣をめくり、知己のベルトに手をかけた。 「ええー!?」 (俺の完璧な嘘がバレた?!)  焦る知己に、俊也が 「いや、先生。根が素直だから、嘘つくの下手過ぎだよ。傍から見ていても『あ、嘘だな』って感じがめっちゃ漂ってたぞ」  呆れながら言う。 「おい、悪徳教師。もっとうまく誤魔化せないのか?」  いつぞやのホテル手前で逆アカデミー賞受賞の敦に、嫌な追い打ちをかけられた。  それと同時に、敦は章に 「章は、なんで嘘と分かったんだ?」  と尋ねた。  暴れる知己の腰のベルトを外しにかかる章は、忙しそうにしながらも律儀に答えた。 「だって、英担言ってたじゃん。 『あの意地悪Masterに会ったのですか?』  って」 (そうだった……! クロード、余計なこと言いやがって。……って、章。こいつ分かってて、俺を泳がせたな!)  狡猾な章を知己は睨んだ。  章の繰り出される手を必死に押さえる知己。  知己の手をかいくぐって、ベルトを外そうとする章。  カンフー映画さながらの迫力の攻防だった。 「喪女と将之さん……。どう見ても、意地悪Masterは将之さんの方だよね?」  無邪気な顔して攻撃しつつも訊いてくる。始末に負えない。 「それは分からない。彼女も意地悪かもしれないじゃないか」  思わず知己が言い返すと 「はあ? それ、保身にしても酷いな、先生。今の言葉をラノさん大好きな喪女が聞いたら泣くぞ。確実に。それはもう大号泣」  ベルトから手を離さずに章がここぞとばかりに容赦なく突っ込む。 「あ、いや……別にそんな意味では」  弾みで言ってしまったが、まだ名前さえ覚えていない黒スーツメガネ女史に (すみません。よく知らないくせに『意地悪』だなんて濡れ衣着せて、本当にすみません)  と心底知己は詫びた。
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