二度目の春

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「大体、先生は将之さんにだけ当たりがキツイじゃない? それってそれ相応の意地悪(こと)を、将之さんが先生にしたからじゃないの?」  器用に章は、喋りながらも手を動かし続けた。  だが知己の方が微妙な差ではあるが体も大きい。 (ちょっとでも気を抜いたら、マジで脱がされそうだ)  と必死に抵抗している為、章は未だジーンズを脱がすことはおろかベルトを外すのさえ成功に至ってない。 「そうか? 将之さん、意地悪じゃないぞ」  教卓でのズボンの抗争の仁義なき戦いを横目に、敦は曇りなき眼で、未だに将之のことを庇う発言をした。 「敦ちゃんには、ね」  蛇拳のようなポーズを取って、章が知己の動きから目を離さずに答える。 「俺にも優しかったぞ」 「はいはい。俊ちゃんにも、ね」 「章にも優しかったじゃないか」 「そうだったけど! もう、二人とも、どっちの味方? 邪魔しないでくれない? 僕は今、先生のベルト外すのに一生懸命なんだよ。先生が抵抗するから、うまく外せないんだ!」  章は勢いよく手刀を繰り出したが、知己はベルトを押さえながら後ろに下がって躱した。 「抵抗するに決まっているだろ?! それに敦達の言う通りだ! 将之が意地悪Masterな訳がないじゃないか!」  言った瞬間、 (とはいえ、確かにあいつは意地悪だけどな)  と知己は自分ツッコみを心の中で入れた。  なんとも複雑な心境である。  クロードもわずか六才の甥っ子も「意地悪」と言うし、家永も「腹黒ボンボン」と称す。門脇に至っては「性格の悪いおっさん」呼ばわりだ。 (思えば、俺の周りの奴らって将之への評価が低いな……)  知己の周りの人間は、酷評だ。  逆に敦達は将之を絶賛しているが。 (この違いって、何だろう?)  素朴な疑問だったが、とにかく今は間違っても将之を意地悪だと認めるわけにはいかなかった。 (このままでは脱がされる……!)  ベルトの攻防に疲れてきた章が 「もー! 先生、嘘ついたら自分で脱ぐって言ったよね?」  と腹立ちまぎれに主張してきた。 「言ってない!」  してもない約束を持ち出されて、知己は即座に否定する。 「往生際悪い! 脱いで! 亀頭撫でさせて!」 「うぎゃー!」  そこで何故か叫ぶのは、やはり敦だ。 「最悪! 絶対に脱がない!」 「確かに、そう言われたら絶対に脱がないだろうな」  俊也が冷静に突っ込むが、そう言われなくとも脱ぎたくなどない。
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