二度目の春

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「あー、もう。俊ちゃんの相手してたら、先生に逃げられちゃった」  という割には、さして苛立ってもいない。  章にとって、教師を揶揄うことは未だにゲームの範疇なのだろう。 「今日は帰ろっか?」 「そういや、こんな時間だな」  俊也が壁掛け時計を見ると、針は17時近くを指していた。 「もういいのか? 章?」  傍観者を極めていた敦が訊くと 「うん。もういい。楽しかった。でも、必死な先生を弄ぶのにも飽いたから今日は帰るよ」 (俺、弄ばれていたのか……)  白衣の前を全て閉じながら、知己は相変わらずの章の態度に辟易とした。 「でも、いつか必ず尻尾捕まえちゃうから、覚悟しててね」  章の捨て台詞にうんざりしていると、なぜか俊也がニマニマと不敵に笑っていた。  章が不思議そうに 「俊ちゃん、どうしたの?」  と訊くと 「先生に尻尾とか……、マジ可愛くね?」  やはりファンタジーな返事だった。 「あれ? 先生は、まだ残るの?」  一緒に理科室を出るかと思ったのに、知己はごそごそと教卓で何かしている。 「お前が俺を揶揄うから、明日の準備が終わらなかったんだ」  恨みがましく言ってみたが、 「だから、さっさと口を割っちゃえば良かったんだよ」 (面白半分の奴に、誰が言うかよ)  知己が聞こえないふりをする。 「おい、章。帰るんだろ? 早くしろ」  理科室ドア付近で待っている敦が急かした。 「じゃあ、また明日」  というとやっと敦達は帰っていった。  知己はやっと落ち着いて、授業の準備ができると胸をなでおろした。
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