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春の夕日さす駅までの道を三人で、のてのてとゆっくりと歩く。
「章。お前、分かってんだろ? 悪徳教師の嘘」
不意に敦が、先ほどの話を蒸し返した。
「当たり前じゃない。先生、ポロリしちゃったしね」
「え? やっぱり嘘だったのか?」
俊也が今更のように驚いた。
敦は「ぽ、ポロリ?!」と別の意味で、過剰なリアクションを示していた。
「俊ちゃんは先生贔屓だな。ひ・ラノ先生にどんな理想持ってんの? ピュアッピュアなイメージ? まだ、いいように受け取っていたんだったら、危篤だね。大人って、みーんな小狡いもんだよ」
夢見る男子・俊也を貶めつつも、達観したような言い方をした。
「うぐぐ……お前だって、『尻尾掴んでやる』とか昭和の時代の捨てセリフ吐いてたくせに」
悔しまぎれに俊也が反論するが、章は気にせずにまるでマジシャンが種明かしをするかのように語る。
「先生、自分で言ったじゃない? 『彼女も意地悪かもしれない』って。それ、言った時点でアウト」
「そうなのか?」
「『彼女が意地悪』ならセーフだったんだ」
「どう違うんだ?」
些末な違いに、俊也は首を捻る。
「つまり、将之さんも意地悪って知っているから『彼女も意地悪』なんて言い方をしちゃったんだよ。あの発言で将之さんが『意地悪Master』っていうことが決定しちゃったんだ」
やっと理解した俊也は
「あちゃー! 先生、もうだいぶ前に誤爆ってたんだ」
ピュアッピュアなひラノ幻影から解き放たれ、俊也は頭を抱えた。
「どう? これでもまだ好きなの? 俊ちゃん」
何故か嬉しそうに尋ねる章に
「おう。誤爆しているとも知らずに必死に誤魔化すとこは可愛いじゃねえか」
威張って応える俊也。
(なるほど。これが「恋の病は草津の湯でも治らない」ってやつなんだな)
章は、いつの時代のDVDを見たのか……古臭い表現で俊也の気持ちを分析していた。
「じゃあ、章は分かっててあんなに揶揄ってたんだな。相変わらず、性格悪いな」
敦は呆れていた。
「だって、先生……。ふふっ。からかうとマジで面白いし可愛いし」
思い出して笑ってしまうのだろう。
「確かに白衣の前を必死で押さえていたのは、可愛かったな」
俊也も同意する。
「お前たちの、その気持ちだけは分からん」
俊也と章は二人で盛り上がっていたので、敦のちっさな呟きに気付かなかった。
―二度目の春・了―
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