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入学式の来賓は 1
「ちょっと聞いておきたいんだが」
「なんですか?」
入学式の前日、知己は式典用の黒スーツを出しながら将之に尋ねた。
「明日、まさかお前がうちに来ないだろうな?」
「行きたくても行けません。今回は、前田千寿に妨害されました」
「うん?」
前田千寿=メガネ黒スーツ女史である。
「僕の地位と権力を使って、彼女を八旗の担当自体から外そうとしたんです。そうしたら、『それはパワハラですっ!』って怒られちゃって……」
(あ、こいつが敦に懐かれている理由が唐突に分かった)
同じなのだ。
陰でコソコソ画策する所。
しかも主に卑怯なやり方ばかりを選ぶ。
(道理で、気が合う訳だ……)
敦と気が合うとなったら、章と俊也ももれなくついてくる。そうして、あの変に結託した4人組が出来上がる。
2月にホテルで食事した時には、あれほど大人に警戒心丸出しの敦が妙に将之には懐いてたのを見て、なんだか割り切れないようなモヤモヤした思いを抱いたものだが、あえてこの仲間に入れてもらわなくてもいいような気がしてきた。
(仲間外れ、上等だな)
そんなことを考えていたら、将之が礼のネクタイピンを取り出した。
「で、入学式は卒業式以上にかぶっている所が多いでしょ? 前回同様、みんなで分担と思ってましたが、さすがに今回は彼女から八旗をもぎ取るのが難しくなりまして。
結論、僕は行きません。前田が行きます」
礼のネクタイピンを手渡された。
「なぜ礼ちゃんのネクタイピンを?」
「さすがに卒業式ではお揃いは付けられなかったでしょ? でも、明日は別々だし、つけてもいいかなって」
「そっか」
一応、卒業式では気を遣ってピンをしなかった。
この男もそれなりに考えたらしい。
「僕は別にバレてもいいんですが」
「俺は構う」
「というか、むしろバラしたい。クロードさんや章君に先輩は僕のものとアピールしておきたい」
うっかり去年異動させたばかりに、今年もクロードは知己と同じ高校だ。
あの春の日の人事異動で余計な助言をしたのが悔やまれる。
「やめろ。クロードはいい同僚だし、章は俺をからかっているだけだぞ」
「それって好きな子を苛めたい小学生の心理ですよね。章君、絶対に先輩のことが好きだと思うな」
吹山章、精神が小学生説を持ち出した。
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