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「……」
急に知己は黙った。
「一体、誰なんです?」
「………………………………」
(何だろう。今、猛烈に答えたくない気持ちになった……)
知己にウザく絡みつつも将之の期待に満ちた目が、どうにも素直にさせてくれない。
敢えて将之から視線を外すと、机の上に出していた携帯が点滅しているのが目に入った。
手に取って確認する。
「あ、LIN〇だ」
と携帯をスワイプすると
「ちょっと! ごまかさないでください。ちゃんと言ってくださいよ。誰が一番好きなんですか?」
しつこく将之が訊いてきた。
「礼ちゃんだ」
「……!」
一瞬、息を飲んだ将之だったが、次の瞬間には
「ぎゃああああ、酷い!」
日光を浴びた吸血鬼のように叫んだ。
「なんですか、それは! よりにもよって礼ちゃんの名前を出すなんて……! 傷つきました! その上、またもやどっちに妬いたらいいのかさっぱり分からない悩みが生まれました。ここは、やっぱり『将之、かっこ、ハート、かっこ閉じる』ってさらっと愛を語ってほしかったー!」
「……傷心の割によくもそれだけ喋れるな、お前」
携帯の画面から視線を将之に戻して言うが
「なんですか、その全然気にしていない風は。今日の先輩のツンっぷり、酷過ぎます!」
まくしたてる将之の勢いは止まらない。
こうなるとメンドクサイ通り越して、駄々っ子だ。精神年齢は小学生以下だろう。
「いや、落ち着け」
「落ち着けません。『将之、ダイシテル』と言ってハグしてくれないと、暴れます」
「……dieしてる? ……死にそうなのか? 大げさな」
「違いますよ。『大好き』+『愛してる』で、『ダイシテル』ですよ。先輩の無知!」
「はいはい」
将之に罵られた所で、痛くも痒くもない。
「出た! どうでもいい扱いの『はいはい』」
「とにかく、噂をしてたら礼ちゃんからLIN〇が来てたんだよ」
知己は、携帯の画面を将之に向けた。
「え? 礼ちゃんは、なんて?」
打って変わって将之は嬉しそうに知己の携帯に飛びついた。
(相変わらず、シスコンめ)
知己は複雑な思いに駆られる。
『博士課程忙しくてめちゃ大変。当分帰国できそうにない。
病みつきの白い粉切れた。禁断症状でそう。オクレ』
「……なんで、あの子はこうも誤解招く表現を敢えてするのでしょうか……」
悲愴な顔する将之に
「そうか? 俺は、めちゃくちゃ血の繋がりを感じたぞ」
と知己は返事をした。
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