入学式の来賓は 2

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入学式の来賓は 2

 八旗高校の入学式。  来賓として公用車でやってきた前田千寿は、高校のお客様用駐車スペースに停めながらかなり緊張していた。 「久々の八旗高校……。やだ、ドキドキする」  やっと憧れの「ラノさん」に会えると思うと、ハンドル握る手にやたらと汗をかいてしまう。  本当は、ここに着く前に大好きなコンビニのカフェ・ラ・テでも飲んで落ち着きたかったが 「公用車を使用する際は、立ち寄り厳禁。うっかりコンビニなんて、もっての外」  と上司に釘を刺されている。  それで前田は毎日家から持参している水筒の「ルイボスティー」で喉を潤し、手汗をバッグに溜めてた弁当買った時にもらうコンビニお手拭きで拭いた。 (昨日は興奮のあまり、眠れなかった……)  前日は肌を整えようと21時には布団に入ったが、あまりにも早く寝たために逆に夜明け前の変な時間に目が覚めた。 (やーん、どうしよ。もう一回寝た方がいいかしら。でも、二度寝をすると今度はきっと寝坊しちゃう)  ラノさんに会えると思うと、ワクワクが止まらない。  どうせ眠れないのだ。  そう思って、布団の中で携帯の写真フォルダを開く。 「ああん、ラノさん。ラノさーん。やっと会えますぅ」  写真に向かって、愛を語る。 「本当だったら卒業式に会える筈だったのに。中位先輩がなぜか『前田の担当校は、くじ引きにしよう』とか言い出して、中位先輩のひっつき虫の後藤のヤロウが悪乗りで『そうしよう、そうしよう』とか言い出して、マジでむかつきましたよぉ。くじ運ない私は、エリート進学校の東陽高校に行く羽目になり、結局、ラノさんに会えずじまい。あの時は、ガチで悲しかったぁ」  もちろん前田は、ラノが居る「八旗高校は、私の担当なので」と自分が行くのを主張したが「でも、東洋高校も中央高校も前田君の担当だろ? 贔屓はよくない。どの高校も平等に扱わねば」と悪意を隠す将之に諭され、怯んだところを後藤が「そうだ、そうだ」と囃し立てた。するとなんだか、周囲の者の視線も冷たい。「贔屓ってよくないね」「前田君って、そういう人?」「教育関係者がそれでいいの?」みたいな雰囲気を感じ取って、渋々したくもないくじに応じたのだ。  だから、前田の中では (私が八旗に行けなかったのは、後藤が騒いだ所為!)  になっている。
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