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「きっと、くじにはなんか細工してあったと思う。でも、どんないかさまだったか分からなかった。
きっと前世はうっかり八兵衛、『楽しけりゃいいじゃない』的に全てをソノヒグラシ生活に注ぐ後藤がなんかしたと思うんだけど、あいつの底の浅いトリックを全然見抜けなかった。ぐや゛じぃー!」
実際に細工をしたのは将之である。
しかも意外に簡単だ。
用意したのは、あらかじめ行先の高校名を書いた紙を二回折っただけの簡単なくじの紙片。
最初に前田が引いたくじには、「東陽(高校)」と書いた紙しか入ってなかった。
将之は、残った二枚の紙片をバレないように入れ替えただけ。
くじに外れて打ちひしがれている前田は、もはや残りのくじを見ていないし、注意散漫な後藤の目をかいくぐるのは容易い。
次のくじには、
(敦君とのニアミス避けよう)
と「中央(高校)」と書いたものだけが入っていた。
予定では、将之が先に引くつもりだった。
そして「残り物に福が有ったね、後藤」と、うらやましげに言いながらくじを終了させるはずだった。
だのに、後藤が
「じゃあ、次は僕が引っきまーすっ!」
と将之の予想の斜め上を行く行動で、先に引いてしまったのだ。
(後藤の奴……! 普通、先輩や上役無視して、先にくじ引くか?!)
そこは前田の言う通り、一理どころか八理くらいある残念後藤クォリティ。
無邪気に、遠慮も忖度なく、将之より先にくじを引いた。
結果、くじを引かない将之が念願(?)の「八旗高校行き」を決めたのだ。
「……」
(これはやばい。ニアミスどころか、壇上に上がって祝辞があるから確実バレるパターンだ。先輩激怒・お仕置きコースは必至。性的なやつなら大歓迎だけど、そうじゃないのは絶対に嫌だ)
この間0.2秒。
瞬時に判断した将之は、
「なんだか、前田君がすごく行きたがってた八旗高校に僕が行くのが申し訳ないな。
……後藤。お前、行っていいよ」
大義名分を掲げて、バリバリの演技ですまなさそうに言った。
これには前田は
(やだ、素敵。ラノラー仲間の中位さんだって、本当は八旗に行きたいはずなのに……!)
と見事に騙された。
後藤は、はじめこそ
「え? いいんですか!」
と喜んだものの
「……いや、違う。これは、何かありますね。先輩が、平野先生のいる八旗高校に行きたがらないなんて」
動物的カンで言い当てた。
「面白そうだから、中位先輩が八旗高校に行ってください」
こうして、前田の言う『楽しけりゃいいじゃない』な後藤の発言によって、将之の八旗高校行きが決まった。
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