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「実は、今回の入学式も後藤の陰謀に巻き込まれかけて、危なかったんですよねー」
ベッドの中で明々と光を放つ携帯に向かって、前田は語り掛けた。
「4月の担当校割であほの後藤が、
『僕、もう同じ学校に二年行ってます。同じ担当校3年目はまずいので、誰か代わってくださーい』
と間抜けなトーンで言い出したの。すると中位さんが
『仕方ない。前田君、担当校を代わってあげてよ』
と言うの。
もう激おこよぉ。
なんで私なの? 今の担当校はまだ1年しか経過してないのに、なんで私なの? 他に二年経過してる人いるのに、その人に言ってよ。
絶対、あほでひっつき虫の後藤が
『げへへ、中位さん。僕、八旗高校担当したい』
と中位さんに根回ししてたんだと思う。でないと、あんなにすぐに私に白羽の矢を立てないよね?
それに、あほで下種のひっつき虫後藤はいつも私と中位さんが休憩時間にラノさんの写真見せ合って楽しく萌えトークしてたら
『いいなー。前田と中位先輩、いっつも推しのラノさんの話してていいなー。仲良しでいいなー。僕も仲間に入りたいなー』
って、めっちゃ羨ましがってたもん。間違いないわ」
将之のフォルダのラノ写真はショートヘアだった。
それもすごく可愛いとは思ったが、前田は文化祭で見た少し憂いを帯びた表情で踊る切なげで華麗なダンス(知己本人は、いっぱいいっぱいで踊っていた為、前田にはそう見えた)で、ストールと共に揺れるロングヘアのラノが忘れられない。
だからロングヘアのラノが前田の推しなのだ。
「担当校外されたら、もうラノさんに会う機会なくなっちゃう。だから、私、必死で食い下がったの。そしたら、なんとか継続させてもらえたわ。入学式の担当も、今度はくじなんかにさせなかったわ。ざまーみろ。あほで下種でひっつき虫で姑息な後藤めー。そう思い通りにはさせないわよー……むにゃむにゃ」
思い込みとは恐ろしい。
前田の頭の中では、後藤はすっかりA級戦犯だ。
「でも、やっと会えますね。ラノさん」
写真の中のひラノは、微妙な表情で微笑んでいる。
「文化祭以来、約5カ月ぶりに会えますにゃー。嬉しいですにゃー。ああん、ラノさん、ふつくしーぃ……むにゃむにゃ」
やがて、二度目の睡魔が訪れた。
前田千寿は携帯の写真を眺めながらそのまま眠りに落ちた。
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