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次に目が覚めたのは、朝日がいつもよりもやや高く上がっている時刻だった。
「久しぶりに、やらかした!」
前田は真っ青になって、飛び起きた。
幸いなことに、朝食を諦めたらメイクする時間は捻り出せる。
「朝風呂入って行こうと思ってたのにぃ……! これというのも、全部後藤が悪ーい!」
時間ギリギリに職場に出勤すると、職場はガラガラ。もう既にほとんどの者が担当校に向かっていた。あほの後藤もラノラー仲間の将之も居ない。前田は、デスクの上の必要なものをかっさらうかのようにバッグに詰めると
「後藤、絶対許すまじぃ!」
公用車に飛び乗った。
通勤ラッシュは終わった時間帯だったので、なんとか八旗高校には式開始15分前に着いた。
「ふぅ、セーフ……」
大量の手汗は、ひラノに会えること+遅刻するかも……の緊張感より解き放たれてのことである。
(あーあ、コンビニ寄ってカフェ・ラ・テと、ついでにおにぎりも買いたかった……)
公用車のバックミラーの角度を変えて、メイクを確認。
良かった。
バタバタしたもののメイクだけは何とかなっている。
(本当はヘアアイロンもしたかった……)
と髪を手で梳いてみた。
前田はまっすぐのボブカットである。生来の直毛体質なので、パーマをかけてもすぐに落ちるし、かかり過ぎて爆発し毛髪が〇ッチ中岡みたいになったこともあってから、もうずっとこのヘアスタイルだ。はねてこそいないが、毎日ヘアアイロンかけて完璧なまでの艶とまっすぐさを手に入れていた。
だが、よりにもよって今日、それができなかったとなるとやたらと気になって仕方がない。
(私も中位さんのような栗色のフワフワ髪だったら良かったのに。あの髪は憧れだわ)
艶やかで明るい色でふわふわで、めっちゃ柔らかそうだと思う。
(お顔も超絶イケメンだし、なんだかんだと後藤にまで付き合ってあげちゃう人柄の良さ。ラノさんトークはめっちゃ楽しいし、いつも優しいし……本当、いい人過ぎるわ)
そこで前田はふと思った。
(そういや浮いた噂ひとつ聞かないけど、彼女とか居るのかな? いや、あれだけのイケメンさんだもの。きっと居るんだろうな。どんな人なんだろうな……。
あ、いけない。こんなとこでぼーっとしてたら、せっかく間に合ったのに遅刻になっちゃう)
二度寝の影響か、いまいち頭がすっきりしない。
慌てて、車から降りて玄関に向かった。
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