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入学式の来賓は 3
何せ、やってきたのが式開始10分前だ。
来賓の待合室である校長室に入った前田は、タッチアンドGOの速さで体育館に案内された。
(こんな時間になっちゃったけど、これからはいつものように『教育委員会』の名に恥じない完璧な仕事をやってみせるわ)
キリリっとした表情に切り替え、定番の黒いスーツに黒いパンプスでカツカツと足音を立てて歩く。
すると、委員会の圧をかけられたと思ったのか、来賓を案内していた校長の顔に緊張が走った。
(ふふふ……これこそ、いつもの私)
心の中でニヤリと今の自分に満足して笑う。
(このまま入学式会場にキリっカツカツと入って、華麗に祝辞を述べる。めっちゃクールビューティなキャリアウーマンを演じて、ラノさんのハートを鷲掴みよぉ。その後、ちょっとだけラノさんに会って、あわよくばまた写真撮らせてもらっちゃうんだ)
妄想猛々しく歩いていたが、体育館に入る直前にピタリと前田は足を止めた。
(え。あれ? もしや、あそこに居るのはラノさん……!)
入口こそ避けてはいるが体育館前で、わちゃわちゃと生徒2人とやり合っているのは、間違いなくひラノである。
(ああん。まさかここで会えるなんて、アクシデントだわ。まだ、キリっとした私を見てもらってない! ああ、でも、めっちゃ声かけたーい! あっ! でも、そうだった。今日は後藤の所為で寝坊。髪が跳ねているかもしれない。こんなんじゃ会えない。無理無理……)
元々直毛ボブカットなので跳ねてなどいないが、朝、ヘアアイロンかけられなかったというのがかなり引け目となっていた。
(あう。一緒に写真を撮ってもらおうと思っていたけど、もしかしてそれも無理無理無理無理ぃ?)
遠目に彼らを眺めていると、会話が聞こえてきた。
「ふざけんな! 何故、俺が入学式に参加せねばならない!?」
「いや、敦。今までおとなしく練習してたじゃねーか。なんで今日になって、ごねてんだ?」
「今日は入りたくない気分だからだ!」
「気分で決めるな。
おい、章。なんとかしろ」
「いくら僕でも『乙女心と秋の空』みたいな乙女敦ちゃんの、どこかのお高くとまったレストランのシェフが作るサラダみたいな気まぐれは、理解できないしどうしようもないよー」
「幼馴染の俺を、よくもそれだけ思いつく限りの言葉を尽くしてディスることできるな……」
敦が睨み付ける。
「一応聞くけど、どうしたの? 敦ちゃん」
(一応じゃなく、一番に聞いてほしかった)
と敦は思いつつ
「……体育館が寒いから嫌だ」
ぼそぼそと答えた。
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