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「体育館が寒い?」
(これまでも入学式の練習していて、寒いなんて言ったことなかったのに……。なんか変だな?)
知己が驚いていると
「今、4月だけど?」
章も同じように理解しかねると敦に尋ねた。
(はわわわ。あれは毒舌美少年司会者の章君! それに一瞬単なるメガネ地味男子かと思ったけど、声で分かったわ。なんてったってアイドルのツッシー君じゃない!)
前田は3人の様子を見いっている。そして
(やっぱりそうだわ! さすがは私! 冴えてるぅ!)
心の中でガッツポーズを作っていた。
「いかがしました?」
立ち止まった前田を不思議そうに見つめ、校長が声をかける。
「いえ。……こちらの生徒指導は大変そうで」
眼鏡をクイっと上げ、キリっとクールに答える。
(うふふ……我ながら、なんてクールビューティなの。
しかも今の『大変そう』って言葉、ナイスチョイス! ちょっとラノさんへの労いを盛り込んだ最高の言葉。ツンの中にちょいとデレをブレンドって、私、凄い。恋のテクニック、A級ライセンスぅ!)
心の中で自分に拍手喝采を送る。
だが校長に
「あの、そろそろ中に……」
と催促されてしまった。
いつまでもひラノ達の様子を見ていたいが、時間がない。式が始まってしまう。
仕方なく前田は、カツカツとヒールの音を響かせて、体育館の中に入っていった。
「何、アレ。感じ悪ーい!」
「よせ、章。来賓だぞ」
「入学式直前にドタキャン(?)、わがまま言って中に入りたがらない敦ちゃんよりも百万倍感じ悪ーい!」
「章……、お前な。俺をディスんなって言ってるだろ」
「しかし困ったな。4月だから、もうジェットヒーターもつけてないぞ」
知己が考えていると、体育館からひょっこりと俊也が顔を出した。
「おーい、そろそろ式が始まるぞ。章も敦も先生も、とにかく中に入れってさ」
俊也は、門脇に「学級委員をすると先生との接点が増えるぞ」という入れ知恵の元、学級委員に立候補した。敦と章は「悪徳教師との接点なんか増やしたくもない」だの「学級委員? そんなの面倒なだけじゃん」と全く乗り気ではなかったため、俊也の学級委員を阻止するものは誰も居なかった。
敦が体育館前で急に入場を拒否ったので、章と知己が残り、学級委員として俊也は他の生徒と共に中に入っていたのだ。
「タイムリミットだね。俊ちゃんもああ言っているし、さ、諦めて中に入ろう、敦ちゃん」
章に言われ、敦は渋々中に入った。
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