入学式の来賓は 3

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「章。倒れた時に頭を打ったか?」 「ううん。ぐらって倒れそうになってすぐに僕が支えたから、頭は打ってない」  章の答えを聞いて、知己は安堵の息を吐いた。 「ずっと顔伏せているし、分厚いメガネかけているから全然分からなかったねー。今、よく見ると、めちゃくちゃ顔色悪いよね。保健室に連れて行かなくっちゃー!」  さすがに章もテンパっているのか、いつも以上にベラベラとよく喋る。 「……久々に、熱が出そうな……予感は、してたんだ」  目をつぶったまま、誰に聞かせるというわけでもなく敦がうわ言のように呟いた。 「もう! 体弱いくせに。なんであの時、寒いだのなんだのごちゃごちゃ言ってないで、ちゃんと具合悪いって言わなかったのー?」  章が半ギレだ。 「朝は熱なかったし、『熱出るかも」って言うと、なんか……悪徳教師に負けるみたいで……」  ぼそぼそと答える敦に、知己が 「本当に体調悪い時は休んでいいって言ってただろ?」  と言ったが、よほど体が辛いのか敦がそれ以上答えることはなかった。 「……!」  知己が無言で敦を掴むと、そのまま横抱きに抱え上げた。 「うわあ!」  と驚く章にハモるかのように 「きゃー!」  前田も壇上で叫んでいた。 (ラノさんが、ツッシー君を姫抱っこしたぁ!)  前田の興奮は冷めずに、立場を忘れ 「と、尊死ぃー!!! 萌えぇ! ふつくしーぃ!」  クールさもビューティさもない叫びに、一同キョトン……である。  祝辞の途中である。  マイクを通しての謎の叫び声に、知己をはじめとする会場にいる全ての者が壇上の前田に注目していた。 「あっ……!」  やっと集まる視線に気づき、慌てて前田は口に手を当てた。 (……何を言っているのかよくは分からないが、祝辞の一部だろうか?)  多少なりとも違和感があるが、祝辞に聞き入っている場合ではない。 (それよりも今は敦だ)  知己は敦を抱えたまま体育館を出て行った。その後に保健室の先生らしき人物も後に続いた。  残された者は戸惑い、体育館はざわついた。 「……んっ! ごほっ、ごほんっ、んんっ!」  前田は咳ばらいをすると 「突然の病人に驚いてしまい、大変失礼しました。  あ……、あ……仰げば……となる卒業式に向けて、新入生の皆さん、どうぞ三年間をここ八旗高校でるような青春を送ることを祈りつつ、本日の祝辞に代えさせていただきます……」  なんとか取り繕い、当初の予定とだいぶ違う祝辞を終わらせた。
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