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だけど落ち込んでいるひラノを想像し
(……ああん、憂いのあるラノさんもいいかもぉ!)
と、ひそかに舞い上がってもいた。
もちろん、油断すると口元には怪しげな微笑みが浮かぶ。
教育委員会に名を連ねる者として、そんな顔をする訳にはいかない。
前田が眉間に皺を寄せて、キリリと緩む顔を引き締める。
それを見た校長は
(これは……。生徒の不調を見抜けなかった教師に対し、何かお咎めを下そうと怪訝な顔になっている?)
と誤解した。
前田は、敦が体育館に入りたがらなかった現場を見ているし、その場に校長も居合わせた。あの時、敦がごねているのを見て前田も「生徒指導が大変そうで」とツンとしながら言っていたが、まさかそれを翻し、この不祥事に知己を生贄にして乗り切ろうというのか。
(この女史なら、やりかねん)
夏の視察の時も、なぜか「まるで化石のようなクッキーを」とお茶菓子まで指定してきたわがままっぷりだ。
何を言い出すか、分からない。
「で、でも、生徒が具合悪いのを隠していたのですから、それも仕方ないですよね」
お咎め怖さに、必死のフォローを入れた。
もちろん教育委員会から厳罰が下り、校長自身の評価が下がるようなマネは避けたい。だが、それを以上に、厳罰を気に病んで平野知己に学校から居なくなられては困るのだ。
(誰があいつらの面倒を見るんだ?)
敦絡みで教師が二人ほど去ったのは、校長の記憶に新しい。
「……私もそう思います」
前田はすかさず返事をした。前田には元よりそんな気はない。
前田の返事を聞いて、校長はホッと胸をなでおろした。
(まあ、いいわ。おかげで素敵なツーショットを拝めたんだから。
あー、あの時、写真を撮れなかったのはめっちゃ悔しいなぁ。だけど、さすがにあそこで携帯取り出して写真撮る勇気はないし……)
あんな場で写真を撮れるツワモノは、きっと林家パー子ぐらいだろう。
「すぐに駆け付けて、保健室に連れて行ったのはむしろ素晴らしい対応だったかと思います。どうか、ラノ先生に気にすることないとお伝えください」
「……ラノ先生?」
聞きなれない言葉に、今度は校長がキョトンとする。
「あ……、いえ、あの」
(やばっ! 今の私はキリっとキャラの私なのに!)
うっかりラノ発言が出てしまった。
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