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「ねえ、それまで敦ちゃん、寝せておくの?」
「当然だろ? 起こす必要がない」
不思議そうに知己が言うと
「ねえ、ねえ。そしたら先生、敦ちゃんが起きるまでは暇だよね?」
何かを期待して、章が言う。
「なんだ、一体?」
嫌な予感しかしない。
「待っている間に、僕にもお姫様抱っこして欲しいな」
上目遣いで言い出した。
「なんでだよ。気持ち悪いな。……しないぞ」
「だったら俺もしてほしい」
どさくさに紛れて、俊也が言う。
「無理だ」
「じゃあ、する方でいいから」
俊也は知己を姫抱っこしたいらしい。
「はあ?」
二人の言う事がまったく理解できずに知己が顔を顰めた。
「悪い冗談は、やめてくれ」
「いいよね、敦ちゃん。お姫様抱っこされて。意識あったら絶対に死んでもしたがらなかっただろうけど、僕らにとっては羨ましい限りだったなぁ」
「敦は軽かったから、できたんだ。お前ら、デカイから無理」
「それを敦ちゃんが聞いたら憤死しちゃうね。小さいの気にしてるから」
「今、寝ていてマジで良かったな」
(こいつら本当に友達か?)
寝ている敦を前に姫抱っこをせがむ友人・章(されたい人)と俊也(したい人)。
「……それに、あれは俺の所為だ」
知己はベッドわきのパイプ椅子にもう一度座り直した。
「違うでしょ? なんで先生の所為? 敦ちゃんが黙ってたのが悪いんでしょ?」
「いや。俺が体育館に入る前に、敦の容態のおかしさに気付けばよかったんだ」
「それ、結果論だよ。こういう時に普段の行いがものを言うと思わない? 卒業式だって寒いのなんのとごねてたし、あんだけ強がってたら元気だと思うよ。顔色だって分からないくらいの分厚いメガネに俯き加減。一緒にいた僕だって分からなかったんだから」
常に一緒にいる幼馴染の章でも気付けなかったのだ。知己が分からないのも無理はない。
「……敦に触ってみたら分かったかも」
「敦ちゃんが触らせるわけないよ。敦ちゃんは、博物館の展示物並みに触れそうで触らせないのだ」
(その例え、よく分からないな)
と、知己が思っていると
「それで言ったら、先生、天才だな。敦の頭撫でてハグして手を繋いで耳塞いで姫抱っこした」
俊也がトンデモナイことを言い出した。
「やめてくれ。俺が敦に触りまくった変質者みたいな言い方は」
「事実を列挙したら、先生が変質者になっちゃったね」
章が冷静なツッコミをした。
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