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「……とにかく、早く保健室に連れて行きたかっただけなんだ。入学式だろ? 注目浴びずに移動してしまいたかったんだ。だから、だな……」
姫抱っこせざるを得なかった状況を語るだけ無駄なような気がしないでもないが、知己は努力した。
「だから、先生自身がお姫様抱っこしたんだ。いいな」
生憎の、予想通りの返事だった。
「よくない。人の話を聞け」
「先生、ちょっとこういう風に腕を前に出して」
章が、手のひらを上に向けた版の「前にならえ」ポーズを取った。
「はあ?」
「俊ちゃん、ちょっと手伝って」
「おう」
二人の不穏な空気を感じて、知己はパイプ椅子からガタリと立ち上がった。
逃がさないと強気な表情で章が正面に立ちはだかる。
「おい、こら。何をする気だ」
俊也がぴったりと背中に張り付いた。背後から腕を回されて手首を掴まれ、そのまま固定される。俊也に操られての、謎の「ウェルカム」状態。
「お前ら……っ!」
「先生、やめてよ。大きな声出さないで。敦ちゃん、起きちゃうよ」
正面の章が、さも迷惑そうに言う。
「お前らがヤメロ!」
ほぼ同じ身長の俊也だが、振り払うことができない。
理科室引きこもり体質インドア派30歳教師VS脳筋行動派男子17歳高校生では、勝負にならなかった。
「俺、蓮様みたいになりたいから、ちゃーんと日々鍛えてんだぜ。……って、これ……」
俊也が、知己の背後で気付く。
(俺、今、成り行きだけど先生の手を握っているじゃねえか!? しかも、超接近で! うわ、うわー……っ!)
急に意識してしまい、握る手に力がこもる。
「俊也、痛ぇ!」
知己が身動き取れずに文句を言うと
「俺、めっちゃ幸せ……」
俊也がうっとりと答えた。
「はあ?!」
「なんか……なんか、色々とやべぇ……」
「はあ?!」
(その俊也の発言がヤバイ……!)
後ろから拘束された知己が忌々し気に俊也を睨んだ。
「俊ちゃん、何がやばいの?」
指示しておきながら、俊也の妙な言動に章が不思議そうに尋ねた。
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