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(学力付かないのは、そういう仕組み……か)
3年生の島からお茶を順に配る卿子を目で追いながら、知己はなんとなく察した。
「相変わらずgameは続いているんですか?」
「まあな」
「!」
クロードが話を始めたとたん、ガタリと音を立てて隣の教師が席を立った。
向かいの教師もそうだ。すかさず広げたばかりの弁当を手早くたたみ、応接室の方に移動してしまった。
きっと彼らは、その話を聞きたくないのだろう。
(……エグいゲーム、考えやがって。みんなメンタル、ボロボロじゃねえか)
ぽつんと二人置いて行かれたような状況になって、知己とクロード二人の2年の島に卿子が茶を持ってきてくれた。
「なんか……変な感じですね」
卿子が、二人に茶を差し出しながら言う。
まさか教師達が生徒たちの授業妨害ゲームに遭っているとは、夢にも思わないのだろう。
「そうですね」
知己は頷いて、受け取った。
知己たちの周りに人の居ない逆ドーナツ現象を味わいつつ、卿子は1年の島の教員に茶を配り終えると自分の拠点・事務室に戻った。
卿子は章たちとの一件以来、怖がって職員室と事務室を行き来するだけ。教室棟には出向かないようにしていた。卿子の業務を考えたら、それで十分仕事はできたし、知己もその方が安心だった。
(卿子さんは、この件に関わらない方がいい)
この間の一件だって、特別教室棟から知己を追い出したい章達の嫌がらせに彼女は巻き込まれただけだ。知己は申し訳ない思いでいっぱいになる。これ以上、彼女に嫌な思いをしてほしくない。
「クロード以外にクリアした人居るのかな?」
「さあ。みんな、喋りっぱなしの50分みたいですよ。clearしてないんでしょうね」
「教えてあげないのか?」
「ふふ。多分ですけど、見張りが生徒だけだと思ったら大間違いですよ。なんで、周りの先生たちが居なくなったと思っているんです?」
「え……?」
「だから、教えないと言ってるんです。これ以上、嫌なことされたくないでしょ? そして誰も彼も嫌な目に遭いたくないと思っているから、この状態でしょ?」
そういうことか……。
知己は、ぐるりと周りを見渡す。
新天地の職員室は「アウェイ」感も漂っていた。しかも、歓迎されない話題の所為で、心なしか職員が皆、目を反らしている気がする。
つくづく、
(俺は鈍いな)
と知己は思った。クロードが敏いだけかもしれないが。
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