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「別にキャラ作りなんて、しなくていいんじゃね?」
と言った後に、後藤が「♩ありのーままのー、姿見せるーのよー♩」と高らかに歌った。
「嫌なの。後藤のそういう所も私のヒャッハーな所も。教育委員会の体面丸つぶれじゃない」
と、前田は頑なに受け入れなかった。
(後藤や私みたいな人間が教育委員会だと思われたら、中位さんのように真面目で真摯に仕事に打ち込んでらっしゃる素晴らしい御仁までもが貶められちゃう)
だが、今や中位将之との萌えトークは、前田にとって既に生き甲斐レベル。
ひラノに会ってからは、ラノ談義なしでは生きていけない体になってしまった。ひラノのことを語り出すと、萌えが勝って素の自分が出てしまう。
(ああん、ラノさん。罪な人……)
そんなわけで、八旗高校から帰った前田は、将之の指摘通りにやっぱり私キャラを忘れていた。
「ハスハスハスハス! いいいいいい今頃ぉ、保健室ではキュートなツッシー君とラノさんが二人きりでぇ、お花畑でぇ……き、きぃゃぁぁぁー!」
興奮で高揚した両頬を押さえ、よく通るソプラノヴォイスで叫んだ。
(ん? 二人は保健室に居るのか? それともお花畑に居るのか? そして『きぃゃぁぁぁー!』って、どうなんだ? 嫌なの、嬉しいの?)
「やっぱり1mmも分からない……」
デスクで将之が腕を組んで考えている。
「あのですね、入学式で体調悪いのを隠して参加したツッシー君が倒れちゃったんですよ」
なかなか乗ってこない将之に痺れを切らして、前田は語ったが
「その『ツッシー君』が分からないんだけど」
将之にはやはり伝わらなかった。
「ええっと、本名なんて言いましたっけ? 文化祭で『ツッシー』って名乗ってたのしか覚えてなくって」
「僕に聞かれても」
将之の気持ちは、いまや巨大迷路を彷徨うそれと同じである。
「とにかく、その倒れたツッシー君をイケメン王子様よろしくスーツ姿のラノさんが……あ、スーツ姿のラノさんもふつくしかったです! ……が、駆け寄って、すぐにツッシー君をお姫様抱っこして保健室に連れて行ったんですよ! もー、オネショタ尊い! 百合カプ尊い! 控えめに言って、最高でした! はげ萌えぇ!」
前田は、一向に一般的な日本語を話せていなかった。
(もう、自力で翻訳するしかない……)
後藤は「どうでもいい」と全く興味を持たずにいたが、将之は知己関係の話だと思うとどうしても知りたい。
それで前田のヒエログリフ(※)的難解言語を解読しようと試みた。
※ヒエログリフ:古代エジプト文字。難解と言われていたけど、ロゼッタストーン発掘後は読めるようになったと言われてます。
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