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「いいな、いいな。一緒に住んでいるのなら、写真撮り放題じゃないですか。ラノさんの部屋着とか見たーい」
意味ありげに前田が上目遣いになり、敢えてパチパチと瞬きを多くしてアピールしていた。
間違いなく「写真撮ってきてくださーい。私に見せてくださーい」のリクエストだ。
(……そう言うと思ったから、同居しているって言わなかったんだよ)
将之がぼそりと
「……ダサスウェットだよ」
と答えたが
「どんなダサスウェットですか?」
しつこく前田が聞いてきた。
「赤と白の縞々」
もちろん、これも嘘である。知己はコットンパジャマ愛用者だ。本当のことを言いたくないので、適当に言ったら
「マジでダサい。萎えますな」
と、なぜか後藤が反応していた。
(なぜ、お前が萎える?!)
将之が心の中でツッコんでいる目の前で、前田は
「やだ、ウォーリーみたい! 可愛い! そんなラノさん、どこに居ても私、見つけちゃうー!」
と逆に着火状態だ。
「ハスハスハスハス! 写真っ! 写真っ! お願い、中位さん。ラノさん写真っ!」
「前田、今日はやけに写真に拘り過ぎじゃね?」
後藤が口を挟むと
「だって私、せっかく今日ラノさんに会えたのに、後藤の所為でヘアアイロンできなかったので突撃できなかったのよ!」
「それが分からない。なぜ、そうなる? 僕の所為?」
「あんた以外に誰が居るのよ?!」
前田と後藤の言い争う横で、将之が笑顔で固まっていた。
(突撃しないであげてほしい。あの人、あれでビビリの人見知りだから)
「式の後はツッシー君と保健室で、らぶらぶらびゅーんしてたからさすがにそこまで押しかけられないでしょ? 今回は、ラノさん写真を全く撮れなかったんですよぉ。だから未練タラタラタランチュラ! 普段着の写真が欲し欲し欲しーいの星野源!」
またもや謎言語に突入した前田だったが、今度の分はなんとなく意味が分かった。
「さすがに、それはダメだよ。分かるだろ?」
将之が柳眉を顰める。
「ああん、意地悪ぅ」
とは言え、聖人君子と仰ぐ将之の困り顔に
(そう……だよね。いくらラノラー仲間の頼みと言えど、ご家族のプライベート写真漏洩なんて、ダメだもんね。さすが紳士だわ、中位さん)
と察し、前田も引き際を感じた。
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