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「……分かりました」
しおしおと返事する前田に
「分かってくれた?」
将之は、にっこり微笑んだ。
「はい」
明らかに落胆する前田に、少しばかり胸が痛まないではないが、ここは譲れない所だ。
「……写真は諦めます」
前田は眼鏡をはずして、そっとレンズを拭いた。きっと興奮しすぎて涙が出たのだろう。だけど、諦めきれずに出た涙にも見える。
しおらしく見えるその仕草に
(黙ってて悪かったかな)
ちょっとだけ将之は思った。
「その代わり……」
(その代わり?)
「今度、中位さんちに遊びに行かせてくださいね!」
前田はメガネをかけ直して、けなげな笑顔を作ってみせた。
「え? なんで、諦める代償を求めているの? ってか、なにげに前田君の要求、上がってない? 全然、分かってないよね?」
それに騙される将之ではない。
これでもかと完膚なきまでにツッコみ倒した。
「……やっぱりダメですか? 純粋に中位さんちに遊びに行きたいなーって思っただけなんですが」
両手を軽く握って口元を隠し俯き加減に前田が謙虚さを演じてみても、言っていることは図々しいことこの上ない。
(どう考えても、不純な動機しか感じられない!)
「うん、うん。顔を洗って一昨日出直しておいで」
やんわりとした口調で辛辣に将之が拒否していた頃、後藤が弄っていた携帯で新作DVDを検索した。
(今度の新作平賀朋上映会会場は、中位先輩んちで決まりだな。可哀そうだから、前田も呼んで一緒に観ることにしよう……)
と親切心半分で購入をタップしていた。
……だが、3日後。
後藤が前田を上映会に誘ったら
「ぎぃやぁぁ! セクハラ後藤、訴えてやる!」
と、これまで以上に嫌われる結果となったのだった。
―了―
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