俊也の学習の成果 1

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 玄関先にはワックスピカピカの黒塗りの外車が停まっていた。 (あー……見たことある車だな)  年式は違うだろうが、将之の大好きな車種であることは車のボンネットに立つ紋章(エンブレム)で分かる。  生憎と知己は興味がないので、詳しいことまでは分からない。  敦を迎えに来たのは、梅ノ木グループの次期後継者……敦にとっては長兄の秘書兼運転手であった。 (まあ、そうだよな。敦のご両親は忙しいだろうし……電話した相手も家政婦さんかな? 「伝えます」と言ってたから、どう聞いても家族って感じじゃなかったし、な)  黒スーツにメガネの男は30歳を過ぎたくらいだろうか。  知己よりやや背が高い細身の落ち着いた感じの男だった。 「敦さん、大丈夫ですか?」  心配そうに聞く運転手に、敦は何の感慨ももっていない。家族が迎えに来ないことは想定内だったようだ。 「持ってた薬飲んで寝たら治った。それよりも章と俊也も一緒にいい?」  運転手は 「もちろん」  と返事した。 「え? 俺もいいのか? 方向違うけど」  と言う俊也に 「車だからたいして遠回りにもならない。俺もそれほど重病人でもない」  と敦が言えば、運転手も 「須々木家の坊ちゃんを乗せなかったら、私が叱られますよ」  と答えていた。 (うーん……俊也が「坊ちゃん」)  時々その片鱗を見せるが、なかなか坊ちゃんらしくない俊也に知己が視線を注ぐ。 「なんだよ、先生。俺が意外に逞しかったのを思い出したのか?」  俊也が照れたように言うと (逞しい……?)  保健室で羽交い絞めモドキに両腕を固定されたのを知己は思い出した。 (無駄に馬鹿力め……!)  眉を顰めた知己に (ふふふ……。先生に密着したらいい匂いに反応して、熱くて逞しいものを押し付けちゃったからな)  勘違いする俊也が居た。  車に乗り込みながら 「悪ぃな、章。敦。先生と不純同性交遊するのは俺だ」  と言うと、章は 「俊ちゃん……いよいよ男割りされる気になったの?」  と不憫そうに答え、敦は 「お前、車に乗らなくてもいいぞ」  と嫌そうにしていたが、車には乗せた。  章達が帰ったのを見届けた後、知己は職員室で報告を済ませた。  その時に校長が 「あの教育員会の女性(ひと)、メガネをクイって上げながら、式で倒れた梅木君と平野先生のことを根掘り葉掘り聞いてて、ちょっと怖かったよー」  と苦笑い浮かべていた。  だから、彼女が絶対に将之に喋るだろうと思っていた。
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