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「お前のとこの教育委員会の女性に、校長が色々聞かれたと震え上がってた」
「へえ。前田君、そんなに聞き倒してたんだ」
「『倒れた子はどうなったか?』とか、『介助した教師の行動は適切だったか?』と突き上げられたらしい。俺、この件でなんか処分下るのかな?」
「……さあ。多分、そんなことにはならないでしょ? むしろ生徒を助けた王子様的先生だし」
王子様的教師と聞いて、知己が「嫌味かよ!」と将之を睨んだ。
(しかし、変だな……)
と将之は思った。
(そんな話はひとっこともしてなかったけど。
ツッシー君とラノさんがお花畑でどーのこーのと幸せそうに妄想猛々しい話を語ってただけだけど……)
前田の私キャラが、悪影響を及ぼしている。
そこまでは読み取れなかった将之だったが、根掘り葉掘り聞きたがる前田の気持ちが分からないでもない。
「そりゃあ……相手が先輩だからです。好きな人のことは何でも知りたいでしょ? 好きな人に隠されたり誤魔化されたりするのは嫌でしょ? 好きだから、本当のことを僕にだけは何でも話して欲しいって思うのは当たり前でしょ?」
将之が知己の手を取る。
「……っ」
両手でそっと包み込むように握ると、知己がわずかに顔を赤く染めた。
「だから、僕には本当のことを喋ってほしいな」
にっこりと微笑んで見せる。
「先輩のことは何でも知りたいんですよ。嘘ついたら、悲しいです」
「……お前、どこでそんなあざとい技を」
演技だと分かっていても、思わず目を反らす。
「いつも強引に口を割らせるのは、ワンパターンだと思いまして」
(このヤロウ。俺は犯罪者か……)
知己は嫌そうに将之の手を振りほどいた。
「酷いやり方やってる自覚はあったのか」
「あ、でも、先輩がお好きで期待してたのなら、そっち方向で行きますよ」
「人をMみたいに言うな」
「Mじゃないなら、正直に言いましょう。学校ではそう教えるでしょ?」
「小学校ぐらいに、な」
「……でも、知らないお兄さんについて行っちゃった小学校の教えを守らない子達を教えているじゃないですか」
敦達が頭に浮かぶ。
(結局、あいつらの所為でこうなるんだな……)
知己は、への字に口を曲げた。
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