242人が本棚に入れています
本棚に追加
「敦が保健室に運ばれたのは聞いたんだったな」
「はい。その後、お姫様抱っこでお花畑に行ったとか」
「行ってねえよ。大体、八旗高校にお花畑なんかねえ」
「確かになさそうでしたね」
八旗高校の花壇には、鬱蒼とした雑草がはびこっていた。
それは卒業式に行ったから、将之にも分かる。
「じゃあ、どこに行ったんですか」
「保健室ってさっきから言ってるだろ?」
無駄に会話がループしている気がすると知己は思った。
「一旦、彼女の話は置いとけ」
「そうですね。ややこしくなりそうだから、先輩の話だけを聞きます。正直に話してくれるんなら、彼女の話と対比する必要もないですし、ね」
「無駄に圧をかけんな」
将之がどこまで信用してくれるのか、怪しいもんだ。
「頑張って説明するから、よく聞け」
「確かに先輩は説明下手ですよね」
「理系だからな」
「じゃあ、実演希望です」
「はあ?」
「だって先輩、説明下手でしょ? 実演するに当たって、ベッドのある寝室に行きましょうよ」
嫌な予感しかしない。
「まだ何にも説明していないのに、下手とか決めつけるな」
「さっき自分でも認めてましたよ」
「う……」
言葉に詰まる。これまでも、それで散々拗れた経験がある。
「決まりですね。はい、寝室行きー!」
はしゃぎ気味に将之は知己の手を取ると、寝室にぐいぐいと引っ張っていった。
寝室のベッドの脇に立って、先ほどの説明の続きを知己は始めた。
「保健室で敦に薬を飲ませて、寝せてからしばらくしたら帰りのHR済ませた章と俊也が来たんだ。薬が効いてぐっすり寝ている敦の横で『お姫様抱っこさせろ』だの『したい』だの騒ぎ出して、最後は敦が目が覚めておしまいだ」
将之は怪訝な顔をする。
「だいぶ端折ってません?」
「……あらん限りんの説明はしたつもりだが」
「さっきお姫様抱っこを試したって言ってたのに、その部分がまるっとなかったですよ。僕が訊きたいのはそこなのに」
別に誤魔化そうとか隠そうと思ったわけではない。それで
「……えーっと」
渋々と両腕を前に出した。
最初のコメントを投稿しよう!