俊也の学習の成果 1

5/5
前へ
/778ページ
次へ
「敦が保健室に運ばれたのは聞いたんだったな」 「はい。その後、お姫様抱っこでお花畑に行ったとか」 「行ってねえよ。大体、八旗高校にお花畑なんかねえ」 「確かになさそうでしたね」  八旗高校の花壇には、鬱蒼とした雑草がはびこっていた。  それは卒業式に行ったから、将之にも分かる。 「じゃあ、どこに行ったんですか」 「保健室ってさっきから言ってるだろ?」  無駄に会話がループしている気がすると知己は思った。 「一旦、彼女の話は置いとけ」 「そうですね。ややこしくなりそうだから、先輩の話だけを聞きます。正直に話してくれるんなら、彼女の話と対比する必要もないですし、ね」 「無駄に圧をかけんな」  将之がどこまで信用してくれるのか、怪しいもんだ。 「頑張って説明するから、よく聞け」 「確かに先輩は説明下手ですよね」 「理系だからな」 「じゃあ、実演希望です」 「はあ?」 「だって先輩、説明下手でしょ? 実演するに当たって、ベッドのある寝室に行きましょうよ」  嫌な予感しかしない。 「まだ何にも説明していないのに、下手とか決めつけるな」 「さっき自分でも認めてましたよ」 「う……」  言葉に詰まる。これまでも、それで散々拗れた経験がある。 「決まりですね。はい、寝室行きー!」  はしゃぎ気味に将之は知己の手を取ると、寝室にぐいぐいと引っ張っていった。  寝室のベッドの脇に立って、先ほどの説明の続きを知己は始めた。 「保健室で敦に薬を飲ませて、寝せてからしばらくしたら帰りのHR済ませた章と俊也が来たんだ。薬が効いてぐっすり寝ている敦の横で『お姫様抱っこさせろ』だの『したい』だの騒ぎ出して、最後は敦が目が覚めておしまいだ」  将之は怪訝な顔をする。 「だいぶ端折ってません?」 「……あらん限りんの説明はしたつもりだが」 「さっきお姫様抱っこを試したって言ってたのに、その部分がまるっとなかったですよ。僕が訊きたいのはそこなのに」  別に誤魔化そうとか隠そうと思ったわけではない。それで 「……えーっと」  渋々と両腕を前に出した。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加