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「僕の匂いって……、こんなにいい匂いだったんですね」
「……黙れ、ナルシスト」
ゾクゾクしていた筈だが、思わず将之に突っ込んだ。
「冗談ですよ」
どうだか。
「でも、何だろ、これ。すっごくいい匂いなのは本当ですよ。それにこんなに密着してて、なんだかドキドキしますよね」
ぼそぼそと独り言のように肩口で将之が伝えてくると
「お前、耳元で喋るなってば」
不機嫌そうに知己が言う。
(お前の声が好きなんだって、思い出しちゃったじゃないか……)
いつも一緒にいるのですっかり免疫ができていたが、こうして耳元で語られると改めて思い知らされる。
「……俊也君、こんないいことしたんだぁ……」
あからさまに耳元に顔を埋められて匂いを嗅がれるのは、くすぐったいし恥ずかしい。
「も、喋んなって」
知己は呻いた。
「……」
とりあえず将之は黙ったが、
(あ。これがもしや前田君の言ってた「はすはすはすはすはす!」の気持ちなのかな?)
思わぬ所で前田言語を理解できていた。
「……………………………………………」
無言ではあるが、耳元ではあはあと断続的に荒い将之の呼吸が聞こえる。
(なんでこいつ、こんなに変質者っぽいんだよー……)
と思うものの、将之のはあはあの呼吸に合わせてドキドキと反応している自分に戸惑う。
(ついに、俺もやばい扉が開かれたか……?!)
なんだか切なくも悲しくなって
「将之、もう離れろ」
と言った。
「や、です。だって、もしかしたら……」
(もしかしたら?)
将之が次に何を言うのだろうと思っていたら
「……ぁっ?!」
ふざけ半分に耳たぶをカプと噛まれた。
もしも両手が自由だったら、間違いなく背後の将之に振り向きざまに一発お見舞いできただろうが、生憎と両手は塞がっていた。
手首を掴んでいたはずの将之の手は、知己の手を掴んでいた。
いつのまにか知己の手の平は下に向けられ、将之は知己の指の間に自分の指を通してがっちりと掴んでいた。
だから猶更、自由は利かなかった。
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