★俊也の学習の成果 2

3/7
前へ
/778ページ
次へ
「もしかして、俊也君にこんなことされませんでした?」 (こんなことって……?)  ふわふわした気持ちの中で考えた。  手を繋いだことか?  耳を噛んだことか?  どちらのことかはよく分からないが、 「……されてねーよ」  どちらもされていないので、そう答える。 「ふぅん……」 (……俊也君、この匂いに耐えたのか) 「あの子、やっぱり子供だな……」  思わず呟くと 「……何か言ったか?」  将之の密着で、ぼぅっとしていた知己が聞き取れずにいた。 「『まだ実証実験終わってません』と言いました」  明らかに先ほどよりも言葉の数が多いが、誤魔化されたことを気にする余裕は知己にない。 (何なんだよ、もう……)  何やら膝から崩れ落ちそうな、眩暈にも似た感覚に陥っている。  かろうじて倒れずに済んでいるのは、後ろから将之が覆いかぶさるように支えてくれていたおかげである。 「……いや、ほぼ終わりだ。この後、章が腕に飛び込んだ弾みで三人共ベッドに雪崩れ込んだ」  知己も熱い息交じりに説明をする。  もはや (俺自身がキショイなぁ……。これ以上、俺も変な扉開ける前に終わってくれ!)  と願うばかりだ。 「……!」  なんか腰の辺りに硬いものが当たった。 「……ぉぃ……」 「はい?」 「毎度言っているが、当たっているぞ」 「毎回言い返していますが、僕のを当ててんですよ」  しれっと自画自賛的に言い返す将之の言葉に、ふわふわした知己の頭は、敦との別れ際の記憶を引っ張り出した。 「あ!? ああああああ!」  思わず、知己らしからぬ野太い声を上げる。 「……びっくりした。そんな声も出せるんですね、先輩」  という割には、まったく離れようとしない将之だが、知己は 「あ、あいつ……。そういう意味だったのか……?」  別れ際の俊也が言った「意外に逞しかった?」の意味を、今頃ようやく理解したのだ。 (あれは俺を押さえつける腕力のことじゃなかったんだ!)  知己の様子に  「俊也君のこと? 彼も押し付けたんだ? 今、気付いたんだ。相変わらず鈍いんですね」  肩口から顔を覗き込んで、将之は呆れていた。  それから 「俊也君。……思ったよりも『子供』じゃなかったんだな」  とボソリと付け足した。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加