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「絶対に『俺だろ?』とか、間抜けな答えを言うと思ってたのに……ああー、悔しい!」
さりげに貶められて、知己は苦笑いを浮かべた。
「あのさ……章は、なんで将之のこと……だと……、その……分かった?」
聞いていいものかどうか躊躇したが、思い切って尋ねると
「………………………視線………………かなぁ」
章にしては珍しく自信なさそうに答えた。
「視線?」
怪訝な顔して、知己が訊き返す。
「他の人にはそんなことないのに、将之さんにだけはやたらと冷たいよね、先生」
「そうか?」
知己は無自覚だ。
「だから、それだけ心許している証拠かなって思った」
そう言うと章は、先ほど知己がテンパって放り出した教科書を拾い上げた。
「そして辛辣なこと言う割には、視線がどことなく優しいんだ」
教科書をバサバサとゆすって軽く埃を落とし、知己のいる教卓に置く。知己は「サンキュ」と軽く礼を言うと
「……言っていることが真逆だな」
と付け足した。
「事務のお姉さんにも、英担にも、蓮様にもそんな感じしないのに、将之さんにだけは、『あー、もうこいつ仕方ねーなぁ!』って感じで、すごく優しい目で見ている。
そんな目をするの、将之さんにだけだから」
そんなに違うのだろうか。
無意識、無自覚って怖いなと思いながら、知己は
「……以後、気を付ける」
と答えた。
「ううん。気を付けないでいてあげてよ」
「?」
「だって、将之さんが可哀そう。ずさんな扱いされた上に、これでもかってくらい冷ややかな視線まで浴びせられるなんて、救われないよ」
そこまで酷いことをする気はなかったが。
「お前、本当に将之のこと気に入っているんだな」
「うーん……そうだね。なんでだろ?」
章は考え込んだ。
「あの人の雰囲気の所為かなぁ? 初対面と思えないくらいお気軽に話せちゃったんだよね。しかも、あの大人嫌いの敦ちゃんが懐いちゃったくらいだし、俊ちゃんも似たような理由で将之さんのことは好きだと思う」
それが章達の将之に懐く理由かと思われた。
(あいつ……、なんだかんだで顔で得しやがって……)
やっぱり、なんだか腹立たしい。
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