入学式の翌日は 2

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「絶対に『俺だろ?』とか、間抜けな答えを言うと思ってたのに……ああー、悔しい!」  さりげに貶められて、知己は苦笑いを浮かべた。 「あのさ……章は、なんで将之のこと……だと……、その……分かった?」  聞いていいものかどうか躊躇したが、思い切って尋ねると 「………………………視線………………かなぁ」  章にしては珍しく自信なさそうに答えた。 「視線?」  怪訝な顔して、知己が訊き返す。 「他の人にはそんなことないのに、将之さんにだけはやたらと冷たいよね、先生」 「そうか?」  知己は無自覚だ。 「だから、それだけ心許している証拠かなって思った」  そう言うと章は、先ほど知己がテンパって放り出した教科書を拾い上げた。 「そして辛辣なこと言う割には、視線がどことなく優しいんだ」  教科書をバサバサとゆすって軽く埃を落とし、知己のいる教卓に置く。知己は「サンキュ」と軽く礼を言うと 「……言っていることが真逆だな」  と付け足した。 「事務のお姉さんにも、英担にも、蓮様にもそんな感じしないのに、将之さんにだけは、『あー、もうこいつ仕方ねーなぁ!』って感じで、すごく優しい目で見ている。  そんな目をするの、将之さんにだけだから」  そんなに違うのだろうか。  無意識、無自覚って怖いなと思いながら、知己は 「……以後、気を付ける」  と答えた。 「ううん。気を付けないでいてあげてよ」 「?」 「だって、将之さんが可哀そう。ずさんな扱いされた上に、これでもかってくらい冷ややかな視線まで浴びせられるなんて、救われないよ」  そこまで酷いことをする気はなかったが。 「お前、本当に将之のこと気に入っているんだな」 「うーん……そうだね。なんでだろ?」  章は考え込んだ。 「あの人の雰囲気の所為かなぁ? 初対面と思えないくらいお気軽に話せちゃったんだよね。しかも、あの大人嫌いの敦ちゃんが懐いちゃったくらいだし、俊ちゃんも似たような理由で将之さんのことは好きだと思う」  それが章達の将之に懐く理由かと思われた。 (あいつ……、なんだかんだで顔で得しやがって……)  やっぱり、なんだか腹立たしい。
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