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「正直、これが恋愛感情の【好き】なのかどうかは、よく分かんないんだけどね。敦ちゃんとはずっと一緒だったから、敦ちゃんの気持ちも考えも手に取るように分かっちゃうってだけだし。例えば、先生のことも面白くて好きだし、俊ちゃんのことも楽しくて好きだよ。先生が敦ちゃん撫でててもハグしてても『僕もしたい』じゃなくって、『僕もしてほしい』ぐらいしか思わないし、妬いたりもないしね。
……だけど、さ」
章は、そこで少しだけ言いよどんだ。視線は一旦、教卓の上に落ち
「……だけど、あの子が泣くのだけは嫌なんだ」
ぼそりと呟く。
知己と章の間には教卓だけの距離だったので、それでやっと聞き取れたくらいの小さな声だった。
「章……」
と呟いた知己に、章は、つと顔を上げた。
「蓮様が先生のことをナチュラルに好きだのなんだの言ってたし、先生に告白する俊ちゃんに対しても拒絶反応なかったから、もしかしたら、先生の好きな人も男の人かなって思った。
将之さんだって分かったのは、割と最近なんだけどね」
照れているでもなく恥ずかしがっているでもない。まっすぐに知己を見つめる目は、もう迷いがない。
「まあ、そういうことだから……敦ちゃんには黙っててね。僕がこんな風に思っているなんて、知られたくないから」
ぐぅっと体をせり出して、挑発的に知己を下から覗き込んだ。
「え? あ、うん。もちろん、そんな話を言いふらしたりしないけど」
章の「知られたくない」理由が分からずにいると、
「あの子、典型的天邪鬼でしょ? お臍359度曲がっているでしょ? 言ったら最後、避けられちゃうから」
と章が答えた。
「避けられはしないと思うが……」
「言ったら、先生の好きな人も広めるからね」
不敵に微笑んで脅すその顔は、精一杯の強がりを感じた。
「いや、言わないってば。ってか、……人の話を聞けよ」
(ああ、もう。可愛いんだか、可愛くないんだか……)
やはり章はそこはかとなく掴みどころがない。
「いい? 二人だけの秘密だからね」
章がニヤリと微笑んで、念を押した。
その時、理科室のドアが勢いよく開いた。
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