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入学式の翌日は 3
その夜、敦にLIN〇の着信音が響いた。
今日は一日家に居た。一歩も外には出ていない。
元気な敦がいつも通り起きてきた時には、ドライで仕事が大好きな父親は何も言わない。でも無言の圧はかけてくる。代わりにやや気弱な母が
「今日は、当然、大事をとって学校に行かないでしょ? 敦ちゃん」
とやっと聞き取れるくらいの儚げな高い声で話しかけた。元々大きな声を出せる人物ではない。
「ああ、うん……」
なんとなく気乗りせずに応えると、長兄が
「昨日熱出していたんだ。行けるはずないだろ?」
と強く言う。次兄は大学生で下宿しているため、ここには不在だ。
だが居たとしても「元気なら学校に行けば?」という人物は、この家には居ないことは敦は知っていた。
元気だし、休むのは知己に負けるようで正直かなり悔しいものがあったが、この家族全員の意見を押し切って登校するのはかなり億劫だ。
それで敦は今日一日、ほぼ自分の部屋で過ごし、携帯のオンラインゲームに勤しんだ。
だからLIN〇が来たのは、すぐに分かった。
きっと章からだろうと思ったら、意外にも相手は俊也だった。
『敦、大変だ。
章と先生が一線越えた!
オーバー?』
相変わらず、よく分からない「オーバー」を駆使する俊也だ。
それだけでは終わらなかった。
もう一つ着信があって、赤いバスタオルを首にかけた元プロレスラーっぽいスタンプが腕を上げ『元気ですかー!?』と聞いていた。
一応、敦は体調不良で欠席しているのだから順番が逆だと思われたが、きっと俊也の取り乱しようが表れているのだろう。
「一線とは、どういうことだ?」
既読と同時に返信した敦に、俊也も
『絶対にナニかしていた』
と、こちらも秒単位で書いて送信する。
ついでに『なに?』と小首をかしげる可愛いペンギンのスタンプも送信されていた。
「ナニかとは、何だ? kwsk」
『それがナニかは、分からないんだ』
の後に、外国人が肩をすくめて両掌を上に向けて「I don't know.」のポーズスタンプ。
敦は、このスタンプにイラリとした。
いや、俊也の要領得ないメールのすべてにイラリとする。
『俺が遅れて理科室に行った時には
既に二人はナニしてた後だった』
の後に、リアクションが大きいと噂されるモデル・鈴木奈〇風の似顔絵『ナニ?なになになになになになに?』のスタンプ。
もはや敦は限界だった。
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