その後の敦 1

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 敦、章の家から駅まで5分程度である。  敦が調子悪そうなら、そのたった5分の間に説得して家に帰すべきだと章は思った。  ただ敦は「帰らない。休まない」の一点張り。それ以外は多くを話そうとしない。 (やれやれ。お臍曲がりなんだから……。敦ちゃんちの家族も、今日の顔見たら登校を阻止して欲しいよなぁ)  昨日休ませたから良いと思っているのだろう。  本人も「今日は行く」とさっさと準備していた。だから、分厚いメガネの下にうまく隠れた隈には気付いていない。   昨夜は今後の対策をどうしてくれよう……と悶々と考えた。だが考える端から、どうしても章と知己のイケナイ妄想が沸き起こり、敦の思考を邪魔をする。結局、良い策など考えられなかった。  人に……特に大人に頼りたくなかったが、解決策を自分で見いだせない敦は (一番は、ライオさん……じゃなかった将之さんに頼ることだ)  と思っていた。 (あの人は教育委員会だし、かつて章と悪徳教師との不純同性交遊を共に阻止した仲だ。きっと、俺の力になってくれるだろう)  将之が、「教育委員会」の者だと分かったのは幸運だったと思う。  おかげで、自分の家からも近い県庁舎に行けば会えるのだ。  だが、それには問題がある。  何せ役所だ。平日17時までに行かないと会えない。  放課後、理科室で章と知己の邪魔をしたい敦には、行きようがないのだ。  電話も考えたが、こんな話、誰かに聞かれでもしたら困る。 (悪徳教師は自業自得だからいいけど、章が停学とか退学になるのは嫌だ)  とりま、将之に頼りたいがすぐには駆けこまずに最終手段に取っておくことにした。  言葉少なにぶすっとした敦を家に帰すのに巧くいかず、そうこうしていたら駅に着いた。  来た電車に乗って、揺られること15分。  八旗高校最寄り駅についた。  そこから歩いて15分程度で学校に着いてしまった。  その頃には、適度に動いて血色良くなり敦の目の隈は薄らいだ。  それを見て、章は (あ、思ったより大丈夫そう……)  ホッと胸をなでおろすのだった。  そして、迎えた放課後である。
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