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「胸に手を当てて考えろって『自分のやったことをよく考えろ』って意味だろ? 物理的に他人の胸でするなよ。分かってて、わざとやってるんだろ?」
ブツブツ言う知己をスルーして
「わ、なんだ!?」
「……すっごい。俊ちゃん。冗談抜きで結構ある……。ムキムキー!」
今度は俊也の胸の辺りを制服の上からまさぐった。
「ふふふ。俺はな……脱いだら凄いんだぞ」
なぜかドヤ顔の俊也に
「いや、脱がなくていいよ」
冷静に章が止めた。
「お前、ここまで振っておいて……」
知己の前で筋肉美を見せそこなった俊也はすこぶる残念そうだ。
DKプラスαのちょっとおバカな御戯れは、今の敦にとっては爆弾そのものだった。
(なんだ、こいつら! 和気藹々といちゃつきやがって……!)
御戯れには俊也も入っていたのに、その部分でだけは都合よくカットされていた。
もちろん章にとっては、何の意図もない。純粋ないつものおふざけだ。だけど知己や俊也にはきゃっきゃうふふと触るくせに、敦にだけは触れないのは、何か癪に触る。
同じDKのぺったんこ胸であるが、章にとって敦の胸は特別だ。御戯れにも章から触ることなんてできっこない。
だが、この御戯れに意地と性格上参加できない敦にとって、疎外感はハンパなかった。
「……俺は帰る!」
突然どーんと噴火した火山のように叫ぶと、敦は理科室を飛び出した。
「はあ?」
三人は一様に驚いたが、次の瞬間には章だけが
「ちょっと待ってよ、敦ちゃーん!」
と慌てて自分の鞄を持ち、敦の後を追いかけた。
鞄を持って追いかけたということは、章も帰ったということだ。
「あ……れ? 章……も?」
残された俊也が呟く。
「俊也は、敦を追いかけなくていいのか?」
と知己が控えめに尋ねてきた。
これを俊也は「俊也は俺と敦、どっちを取るんだ?」と勝手に拡大解釈した。
(こ、これは図らずも先生と二人っきりになったのでは……)
「俺は行かない。先生と一緒にここに居るよ」
そう言って、緊張と期待で満ちた顔で振り向く。
すると、
「そっか。俊也だけは残ってくれるのか」
純粋に労働力が残って嬉しそうな知己が、拾い集めたジャガイモを差し出した。
「え……。あ、うん」
完全に帰るタイミングを逃した俊也は複雑な顔で、ジャガイモを受け取った。
「じゃ、敦のことは章に任せて、お前だけでも明日の授業の準備手伝っていってくれ」
知己と同じ空間に居られるのは、正直嬉しい。
だが労働に明け暮れ、結局、俊也の期待するような甘い時間は1秒たりとも訪れはしなかった。
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