その後の敦 2

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「胸に手を当てて考えろって『自分のやったことをよく考えろ』って意味だろ? 物理的に他人の胸でするなよ。分かってて、わざとやってるんだろ?」  ブツブツ言う知己をスルーして 「わ、なんだ!?」 「……すっごい。俊ちゃん。冗談抜きで結構ある……。ムキムキー!」  今度は俊也の胸の辺りを制服の上からまさぐった。 「ふふふ。俺はな……脱いだら凄いんだぞ」  なぜかドヤ顔の俊也に 「いや、脱がなくていいよ」  冷静に章が止めた。 「お前、ここまで振っておいて……」  知己の前で筋肉美を見せそこなった俊也はすこぶる残念そうだ。  DK(男子高校生)プラスα(教師)のちょっとおバカな御戯れは、今の敦にとっては爆弾そのものだった。 (なんだ、こいつら! 和気藹々といちゃつきやがって……!)  御戯れには俊也も入っていたのに、その部分でだけは都合よくカットされていた。  もちろん章にとっては、何の意図もない。純粋ないつものおふざけだ。だけど知己や俊也にはきゃっきゃうふふと触るくせに、(自分)にだけは触れないのは、何か癪に触る。  同じDKのぺったんこ胸であるが、章にとって敦の胸は特別だ。御戯れにも章から触ることなんてできっこない。  だが、この御戯れに意地と性格上参加できない敦にとって、疎外感はハンパなかった。 「……俺は帰る!」  突然どーんと噴火した火山のように叫ぶと、敦は理科室を飛び出した。 「はあ?」  三人は一様に驚いたが、次の瞬間には章だけが 「ちょっと待ってよ、敦ちゃーん!」  と慌てて自分の鞄を持ち、敦の後を追いかけた。  鞄を持って追いかけたということは、章も帰ったということだ。 「あ……れ? 章……も?」  残された俊也が呟く。 「俊也は、敦を追いかけなくていいのか?」  と知己が控えめに尋ねてきた。  これを俊也は「俊也は俺と敦、どっちを取るんだ?」と勝手に拡大解釈した。 (こ、これは図らずも先生と二人っきりになったのでは……) 「俺は行かない。先生と一緒にここに居るよ」  そう言って、緊張と期待で満ちた顔で振り向く。  すると、 「そっか。俊也だけは残ってくれるのか」  純粋に労働力が残って嬉しそうな知己が、拾い集めたジャガイモを差し出した。 「え……。あ、うん」  完全に帰るタイミングを逃した俊也は複雑な顔で、ジャガイモを受け取った。 「じゃ、敦のことは章に任せて、お前だけでも明日の授業の準備手伝っていってくれ」  知己と同じ空間に居られるのは、正直嬉しい。  だが労働に明け暮れ、結局、俊也の期待するような甘い時間は1秒たりとも訪れはしなかった。
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