その後の敦 3

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その後の敦 3

「敦ちゃん、敦ちゃん、敦ちゃーん!」  全速力で章が追いかけてきた。 「……」  振り向くと、章以外、俊也も知己も姿が見えない。  それで敦は走るスピードを緩めたので、章が追いついた。 「何を、そんなに怒っているの?」  息を切らせながら、章が尋ねる。  自分を追いかけるためにこんなに走らせて、少しばかり(悪かったかな?)と敦は思った。 「……怒ってなんかいない」  バツが悪そうに答える敦に (いや、どう見ても激怒(げきおこ)だったよね?)  と思わないでもなかったが、章は敢えてそこには触れなかった。 「怒ってないけど……ただ……その……」 「何?」  これまで話したがらなかった敦が、やっと胸の内を打ち明けてくれそうだ。 「章……。あの、俺は…………………………」  敦が重たい口を開く。  ややじれったくも思うが、敦の性格を考えたらもはや待つしかない。  家は隣。どうせ帰る道は、ほぼ同じ。時間はある。  章は駅までの道を歩きながら、気長に敦が喋ってくれるのを待った。 「うん」 「………………………お前の恋を応援できそうにない…………………………」  の言葉を聞くまでは。 「え?!」  章に衝撃が走る。 (え?! 何? あれ? どういうこと? もしかして、先生、喋った?)  あれほど口止めしていたのに……! (っていうか……僕、今、…………………………遠回しにフラレた!?) 「ちょ、あの、ど、どうして……?」  平静装おうとしても、動揺してうまく言葉が出てこない。  あの饒舌な章が。  ついでに何だったら余計なことまで喋る章が。 (俊也の言った通りだ。この話題になると章が柄にもなく動揺する……)  敦が、昨夜の俊也とのメールのやり取りを思い出して、確信を強めた。 「俺……前にも言ったけど、お前の好きなヤツのことが嫌いだから」 (敦ちゃん、……そんなに自分のことが嫌いなんだ……)  章が哀し気な瞳で敦を見つめる。  敦には「(自分)の好きな人のことを(親友)が理解してくれない」と章が悲しげに思ったように見えた。  揺れる章の瞳に、 (そんなに……あいつのことが好きなのか?)  と、その恋は本気なのだと思い知らされた。  敦は、無性に言いしれない苛立たしさに駆られた。 (やっぱり、俺は……あいつが……あの悪徳教師が大嫌いだ……!)
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