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「そんなに……(自分のこと)嫌い?」
眉をハの字に下げて、どこか遠慮がちに訊く章に
「(悪徳教師なんか)大嫌い」
と敦は即答した。
「大っ嫌い。死ねばいいと思っている」
「そんな哀しいこと言っちゃダメだよ、敦ちゃん」
「本当だ!」
敦はきっぱりと言う。
「……。敦ちゃんも割と好きだと思ってた」
自分で「俺の方が可愛い」だの「俺の方がかっこいい」だの常日頃に自画自賛しまくっていたのに。
実は口先だけで、そんなにも自分のことを嫌っていたのか。
(そっか。そうだったのか……)
前の理科担ともめた後から始めた無差別教師への仕返しゲーム。何の関係のない人間を巻き込んで、本人が傷ついていたのは知っている。
敦が「自分が嫌い」というのも頷けないことはない。
よく教育評論家が言う「十代若者特有の自分が嫌い」パターンと思われた。
「お前の好きなヤツのこと、好きだと思ったことなんか……一度もない」
と、敦は嘘を吐いた。
知己のことをすごく嫌いかと言うと嘘になる。
章と一緒に理科室に集まってとりとめのない話を喋ったり、知己の手伝いや理科室掃除を渋々したりするのは、それなりに楽しかった。
(だけど、それは章と一緒だったからだ。断じてあいつと一緒だったからではない!)
成り行きでもはや辞め時を見失った教師苛めゲーム。それを終わらせてくれたのは間違いなく知己だ。
その上、首謀者の敦を決して責めなかった。あんなに酷いことを誰彼構わずに仕掛けていたのに、咎めなかった。
あの日、頭を撫でられても怒らなかったのは、怒れなかったのだ。(子供扱いして!)と怒る気持ちよりも、「もうするなってことで……」で終わらせてくれたことで、これまで続いてきた苦しさや恨みがすうっと溶けてなくなった気がした。
だけど、今更引くに引けない。
口をついて出てきた言葉は、全て知己への罵詈雑言だ。
「俊也とも仲いいみたいだけど……別に、男が男にモテたからって何なんだよ。ちーっとも偉かないだろ?」
(敦ちゃん!)
「ミスコンで票を集めたからって、人気あるとでも思うなよ。勘違い野郎。大体、あれ、インチキだし!」
(あああ、敦ちゃん!)
「女装が似合う? 綺麗? 可愛い? どこが? 全然。真逆。きしょい! 嬉々として女装するなんて、むしろ変態だろ!」
(敦ちゃーーーーーーーーーん!!!!!)
知己を貶めて章の目を覚まさせようと敦は散々言ったが、言えば言うほど章はますます悲嘆に暮れるばかりだった。
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